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小さな友
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 子供が白ひげ海賊団に来た日、船医の判断でその日一日は点滴に繋がれ、そいつは泥に沈むかのように深い眠りに落ちていた。長期間の断食によって栄養失調、脱水症、そして積荷によって骨にヒビの入った足からくる発熱に死にかけていたようだが、それでも二日後には熱も下がり、今では話し、動ける程度に回復した。まだ数日の間は安静にする必要があるようだが、これで一安心である。

 子供の面倒を見るように言われたおれは作業の合間に頻繁に顔を出すようにしているのだが、どうも奴隷という期間が長かったからか、この子供は必要以上に他人に恐怖を抱き酷く怯える。こればかりは薬では治せないからお前頑張れ、などと雑な助言をした船医は今この部屋を外していた。つまりおれと子供、二人きりである。しかもシャワーで汗を流してやれと言われたものだからたまったものではない。会話すらろくに続かぬというのに、一体どうして体を洗えると言うのか。
 ため息をついて子供の顔を見下ろして、悩んでも仕方ないと思ったおれは風呂へ向かう。カルガモの親子のように一定の距離を開けて付き従う子供の気配に注意しながら、不意に一抹の不安を覚えた。

「……お前ェ、女か?」

 子供とはいえ女と風呂を入るのは気まずい。そもそもこの子供は顔が幼く目も大きく髪も長い。見ようによっては男にも女にも見えるため性別など気にも留めていなかったが、念のため確認を取っておくべきだろう。子供は頭を横に振る。男か。ならばいい。

 脱衣所で服を脱げと指示すると、子供はまた怯えた目でおれを見上げた。何も言わずに黙って見ていると涙ぐんだ目を伏せ、鼻をすすりながらボロボロのシャツを脱ぎ捨てる。ワンピースのような薄っぺらい布地の下には他に着ているものはなく、その待遇の悪さに改めて、奴隷という立場の人間に対する、扱いの悪さを認識した。

「その傷……」

 更に病的に白い肌には無数の傷跡が残っている。それもそうだ、海賊なんてものは暴力を全ての手段に据えた男所帯の集団である。女も男も大差ない子供など、ストレス発散に何をされるか、考えなくとも分かることだ。
 おれは頭をかきながら、凄惨な過去に怯えて肩を震わせる子供の前にしゃがみ込んだ。丁度目線がかち合う高さで覗き込んだ瞳は炎のように赤かった。

「よう。おれァお前ェに変なことはしねェ。もちろん、痛ェことなんて絶対ェにしねェと約束する。だから大人しくシャワー浴びろ。……出来るか?」

 子供とどう接すればいいかなど分かるはずもなく、マルコや親父に聞いたところでやはり分かるはずもなく、数日考えても分からなかったおれは、全部伝えることにする。分かりやすい言葉で、優しく、ゆっくり。おれに敵意がないということと、協力してほしいということを、子供でも理解出来るように丁寧に。
 怯えに揺らいでいた瞳がじっとおれを見つめ続け、それからしばらくして小さな声が「わかった」と返答した。まともな会話をしたのは初めてでつい頬が緩む。

「おれはエース。ポートガス・D・エースだ」

「エース……さ、ん」

「エースでいいよ。お前ェの名前は?」

 ロゼ、と子供は呟いた。ロゼ。いい名前だ。

 自力でシャワーを浴びたことがないというロゼを連れ、バスルームに入り体の洗い方を教えてやる。まず頭を洗い、流し、そのあとに体を。肩からシャワーをかけて最後に足元を洗えば、泡が他の部位に付くことはない。カーゴパンツを履いたまま入ってしまったおれも服を脱いで全裸になり、自分の体を洗いながらそんな常識を教えてやった。こうして何か目的を共有すると、慣れと共にロゼは少しずつ言葉を発するようになる。まだ単語だけの返答だが、きっとうまくやっていけそうな、そんな気がした。

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120705