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セックスフレンド3
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 骨の髄が砕けるような小気味のいい破裂音が食堂に響いたとき、その場に居合わせた面々は恐らく「ああ、またか」と思ったに違いない。食堂の中心辺り、丁度マグカップのドリンクを飲むような体制で立ち尽くすユーリの顔と手と胸元は濡れている。かろうじて原型を留めた持ち手はユーリの指に引っかかって虚しく揺れる。昔に比べて回数は減ったとはいえ、未だ何日かに一度発生するイベントだ。

「おうユーリ、舐めてやろうかあ!?」

「いらねーよバカ、口が臭え」

「ユーリィ、これで何個目だい? マンコ、ってか?」

「いいから雑巾持ってこい」

 その秀麗さが故に格好の餌食にされがちで、男だらけの大所帯ではよくある卑猥な揶揄がそこかしこから上がったが、ユーリは慣れた様子で返しながら中指を立てている。黙って立って、まれに微笑んでみせれば恐ろしく可愛い顔ではあるが、何分この口と素行の悪さが悪目立ちするこの男は、悪魔の実の能力者ではないにも関わらず、常軌を逸した怪力を有していた。

「ユーリ、新しいカップ置いとくぜ」

「おーエース、サンキュー」

 食堂に足を踏み入れた俺がカップを二つ取りユーリに声をかけると、飛び交っていた野次が消える。仲が悪いというわけではなく、俺がユーリに惚れてるということを、この場にいる奴らはみんな知っているのだろう。

「最近また増えてきたんじゃねえ?」

「カップ?」

「いや、色んなもん」

 マグカップなど日常的に破壊されすぎていて数える気も起きないが、それにしても近頃よく「廃棄処分」になる物が多い。例えばユーリが手を置いた途端に砕けたテーブルとか、ユーリがつまずいた瞬間破裂したイスとか、ユーリが駒を乗せた瞬間に大穴が空いたチェス盤とか、つまりそういうことだ。
 大抵は考え事に耽っていたり機嫌が悪かったりで力をコントロール出来ないせいだ。本人は意識しているつもりでも常人がこいつに肩を叩かれればそこは腫れあがるし、なまじ覇気を使えるだけあって、能力者であってもダメージは免れない。

「気を付けねェとケガするぜ?」

「しねーよ。そんなヤワな作りじゃ、」

 マルコが持ってきた布巾を受け取り何の気もなしにユーリの首元にそれを押し当てる。単純に割れたカップから飛び散り滴った水を拭いてやろうと思っただけだったのだが、ユーリがはっと息を飲んで身を捩ったせいで、みんながみんなそれを意識してしまった。まるで空気が凍り付いたようだ。こいつと肉体関係を持つようになってから、こうした他愛ない接触が秘事のように感じてしまうため、人の目に晒されると正直気まずい。主にユーリが、だ。

「い、いいよ自分で拭けるっての!」

「お、おお……」

 酒の勢いとはいえやはり早まったのだろうか。顔を赤く染めながら俺の持つ布巾を引ったくったユーリが細い喉や薄い胸元を拭うのを見つめながら、色めき立つ周囲に牽制を込めて睨みを効かせる俺の努力を、こいつは知らない。俺の存在がある程度の虫除けにはなっているようだが、粗悪な態度と裏腹に、きめ細かい滑らかな肌に欲情する男は少なくないのだ。そして俺もまた、その一人であった。

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120703