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呉島主任は愛妻家である
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「呉島主任の奥様は美人で羨ましいです」

 業務の合間に部下と他愛ない話をしている途中、不意にそんな言葉をかけられた。
 年に一度開かれる社員の家族を招いての謝恩会で、研究部門のプロジェクトリーダーである私が妻を呼ぶのは珍しいことではなく、彼女の容貌はその中でもすこぶる評判であった。
 コーヒーの入ったカップを口に運んでいた俺が何と答えるか決めあぐねていると、その会話を聞いていた凌馬がクツクツと笑いながら振り返る。

「貴虎はこう見えて面食いだからねえ。携帯の待受も奥さんの写真なんだ。そうだろ?」

「凌馬、いらんことを言うな……」

 面食いという点は肯定する気はないものの、待受画面に関しては否定出来ないため曖昧に口ごもる俺を見て部下が笑う。当初は元々設定されていた壁紙のままだったのだが、妻の悪戯により彼女の写真に変えられて以来、元に戻す理由もないため待受画面はそのままにしておいた。それをいつだったか、凌馬に見られて散々からかわれたわけだが、何の気もなく携帯を開いたときに癒しを得ているのもまた事実である。

 ボールペンを置いた凌馬がイスに座ったまま隣のデスクに移動して試験管を一つ摘まんだ。中に入っている微量の液体を軽く揺すりながら、興味津々と言った様子で耳を傾ける部下に顔を向ける。

「君は謝恩会で見たことないんだっけ? 綺麗な人だよ、彼女。仕事一辺倒の貴虎にはもったいないくらいさ」

「でも呉島主任もイケメンですし、美男美女って感じで釣り合いそうですね」

「絵面はね。しかし奥さんにデレデレしてる貴虎はイケメンって言うより……」

「俺をからかうのもいい加減にしろ凌馬」

「おっと……怒られてしまった」

 わざとらしく肩を竦める男に悪びれた様子など欠片もない。あまつさえ「写真を見せてあげるといい」などと言い始めたが、俺がそこまでしてやる義理はないため適当に話を切り上げ研究室を後にした。

 コーヒーを飲みながら携帯を開くと、メニューが表示される画面の奥に、ピースサインをする妻の顔が写っている。悪戯をするなと言ってあるというのに、彼女は俺の携帯で自分の写真を撮り待受に設定したのだろう。片目を瞑り微笑む顔が何ともあざといのだが、これを彼女が撮影したのだと思うと自然と頬が緩むのを感じる。

 忙しいときにはほとんど家に帰れないため、せめて今日のような穏やかな日は定時に帰らなくては。そんなことを考えながら携帯を懐にしまい、俺は自分のオフィスへと足を向けるのだった。

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140608