転生
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週末、サイが泊まりに来た。自分でもよく分からないうちに話が進み、気付いたときには彼が僕の家に宿泊することになっていた。サイは押しが強いというか話を進めるのがうまいというか、とにかく、二日間彼と過ごすことになってしまった。
上機嫌で僕の友達をもてなす母親の作った夕食を食べ、互いに入浴を済ませたあと、今はベッドの上に座っている。先程からほとんど会話はない。最後に交わしたのは「いい湯だったね」くらいのものだ。
自分の部屋だと言うのに居心地が悪くなった僕は冷たい麦茶を取りにリビングへ行ったが、部屋に戻るとまた沈黙が出迎えてくれた。
「困ったな……」
受け取った麦茶を手に包み、不意にサイがそう言った。麦茶嫌いだったのかと慌てて立ち上がろうとした僕の手をサイの白い腕が掴む。麦茶で冷えた手はひんやりと冷たかった。
「麦茶じゃない。緊張してるんだ。本当に泊めてもらえるとは思ってなかったから」
今更な上にごり押しで迫って来た人間の言うセリフじゃないと思ったが僕は黙って彼の目を見つめた。サイの目はとても真剣だった。じっと、熱を孕んだ視線が僕に注がれている。その視線がまた落ち着かなくて僕はベッドに座り直す。サイが首を傾げて僕に笑いかける。
「春日、本当は迷惑してる? 君はきっと僕とこうして過ごすのがつらいんじゃないかな」
そんなことはないと答えた方がよかったのだろうが、僕は咄嗟に言葉を紡げず口ごもった。
迷惑ではない。サイは優しかったし、僕が本当に困ることはしなかった。しかし彼に告げられた「愛してる」という言葉に戸惑いがあるのは事実だ。正直、受け入れられない、と思う。
「迷惑じゃ……ない、けど。でも……まだサイのこと、よく知らないから」
絞り出したのはそんな曖昧な言葉だった。はっきり相手を突き放せばいいのに、人に嫌われたくないと思う僕はそれすら出来ずに白黒つかない態度で彼の隣にいる。どうすればいいのかなんて、とっくの昔に分からなくなっている。ただサイの言葉を否定して、都合のいい単語だけを頭の中で反芻するだけだ。
「君は……何も覚えていないんだね。何も」
寂しさを含んだサイの声が小さく空気を震わせる。僕は何も言い出せなくて、白々しく聞こえないフリをして顔を背けた。顔を背けることしか、出来なかった。
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131124