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百合
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※主人公の名前
 奈実並 美波(なみなみ みなみ)

 物間くんは意地悪だ。誰かが何かをやらかすと必ずああ言ってこう言って、相手が落ち込むまで意地悪を言う、そんな男子。基礎体力の乏しい私が登校時に走り込みをしているなんて知られたら絶対にからかわれるため言わないでおこうと思ったのに、今日はちょっと学校に着くのが遅れてしまって、そのせいで物間くんと鉢合わせてしまった。へえー、ふうーん、なるほどねえ。ニヤニヤ笑いでそんなことを言われて私は居心地が悪くなる。まじまじとこちらを観察する物間くんに、せめて勢いだけでも負けてはならないと意気込んで、私は汗を拭うために持っていたタオルで首の後ろを拭った。早く更衣室で着替えたかった。

「な、なに? 早くそこどいてくれる?」

 私は強気に言った。私の靴箱は物間くんの靴箱と位置が近いので彼が靴を履き替えていると靴の出し入れが出来ないのだ。邪魔なんだからどいてよ、とは流石に言えなくて、それでもどうにかツン! と顎を上げてなるべく刺々しく言ったつもりだった。しかしメンタルの強い彼には全然堪えていないようである。

「奈実並、体力作りしてるんだ? そりゃそうだよね、体力テストもワーストだったもんね」

 ほらきた。入学してからずっとそのネタでイジられている私にはもう真新しさのない揶揄だ。私の個性は水を操るだけなので陸地においてはほぼ無個性だし、その中で行う体力テストの結果はそれはもう散々だった。自分の弱点を分かっているからこそ努力して、せめて陸地でも足を引っ張るような真似はしないように基礎訓練を繰り返しているのに、それを何度もからかうなんて本当に最低な男子だと思う。
 ほんの少しだけ泣きそうになってしまって、言い負けてしまわないようキュッと唇を噛み締める。悔しい。せめて一言ガツンと文句だけでも言ってやろうと思って口を開いたとき、ガツン! と、凄い音が鳴った。目の前の物間くんの頭に、どこからか飛んできた鞄がぶつかって吹っ飛んだ。スローモーションで人が吹き飛ぶ瞬間を見たのは生まれて初めてだった。

「おまえさ、いい加減やめなよ。美波に嫌われるよ?」

 はあ、とため息をつきながら現れたのは一佳ちゃんだった。こんな早い時間に学校に来てるのは珍しかったが、そういえば今日は彼女が日直だったような気がする。長い髪を片手で払いながら歩く一佳ちゃんと床に倒れ込んだ物間くんを見比べる。一佳ちゃんがにこっと私に笑いかけた。

「おはよ、美波。今日遅かったけど寝坊?」

「う、ううん。事故があったみたいでいつものルート通れなくて……迂回したら遅くなっちゃった」

「そっか。いつも学校にいる時間にいないからちょっと心配だったんだ。ほら、更衣室行くんでしょ? 靴履きかえな」

 彼女に促されて私は慌てて自分の靴箱へ移動した。付近ではまだ床に伏せている物間くんが何かブツブツ言っていた。もしかしたら当たりどころが悪かったのだろうか。上靴に履き替える私を横目に見ながら一佳ちゃんが物間くんの側へ近寄って、まるで道端の石ころにでもするように、つま先で物間くんをつつく。「伸びちゃったな。ま、いいよね」あっけらかんと言った彼女が、物間くんを倒した鞄を拾って肩にかける。あの意地悪な物間くんをたった数秒で無力化するなんてやっぱり一佳ちゃんは凄い。出そうになっていた涙は引っ込んで、代わりに私も一佳ちゃんにつられて笑っていた。
 言いたいことを言えずにからかわれてばかりの私の目には、強くてかっこよくて優しい一佳ちゃんは眩しい存在だ。彼女は入学当初から私の憧れで、そんな一佳ちゃんと一緒のクラスになれて本当に良かったと思う。

「物間は心がアレだからあんな言い方しか出来ないけど、本当は美波に頑張れって言いたいだけなんだよ。美波の頑張りはみんな知ってるし、私も負けてらんないね」

 胸の辺りがぎゅっとなる。私なんかより一佳ちゃんの方が凄いに決まってるのに、彼女はこうして私を認めてくれていて、それが何より嬉しかった。私こそ、大好きな一佳ちゃんに遅れを取ってなるもんか。嬉しさでニヤける自分の顔を両手で挟むと、それを見た一佳ちゃんがアハハと笑った。

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160816