鞠也×男の娘
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「ねぇ鞠也ちゃん、このクッキー貰ってもいいかしら?」
口元で手を合わせふわりと微笑む葵は可愛らしい。この上なく愛らしい俺には劣るだろうが、それでもこの少女……いや少年は、同世代の中では頭一つ飛び出た知能と人格、そして容姿を持っていた。
「ええ、もちろん。葵ちゃんのために焼いて頂いたからまだ沢山あるの。遠慮せずに召し上がってね」
喧しくて鬱陶しいかなこは邪魔だったので追い出して、そんな静かな俺の部屋で開かれたお茶会は実に和やかだ。後ろで控える茉莉花も黙ったままなので少なからずこの雰囲気を楽しんでいるんだろう。嬉々として自分の気に入ったチョコレートクッキーに手を伸ばす葵に微笑みを投げる。少女のなりをした少年は照れたように上目がちに俺を見たあと、それを隠すようにはにかんだ。
「鞠也ちゃんは食べないの?」
「ふふ、食べるわ」
俺と葵はいわゆる幼なじみってヤツだった。父親がデザイナーで母親が大手化粧品メーカーの社長という裕福なこいつは、俺たち兄妹に混じり女装で天の妃女学院に在籍している。いくら俺を好きだからといえど別にそこまでしなくても、と思うものの、もし葵が御星の森や他の学校に通うというなら無理矢理にでも俺と共に天の妃へ通わせるつもりだったので結果はオーライだ。
「葵ちゃん……クッキーが口に付いているわ」
「え?」
夢中になっていた葵に声をかけるとこいつは慌てたように口元に手をやった。かなこにも女装少年と知らしていない彼の演技は完璧なもので、例え俺と2人きりでもこの調子だ。かなこなら泣いて喜びそうなまさしく乙女と言わんばかりの所業ばかりの葵の細い手を取り椅子から立つと、幼なじみはハッとしたように俺を見上げた。
「やっ……鞠也ちゃん?」
「ごめんなさいね、葵ちゃん。クッキーなんてついてないわ」
「もぅ、鞠也ちゃんの嘘つき……」
「まぁそう拗ねるなよ。折角邪魔がいないってのに、女装ごっこで時間を潰すのは勿体ないだろ?」
「別に俺は、鞠也がいればそれで……」
「バァカ。俺は満足出来ない」
椅子に座る葵の膝の上に、向かい合う形で腰を降ろす。恥じらってるわりに茉莉花に目もやらないってことは嬉しいんだろう。
元々物腰の柔らかい葵は小さな声で何か文句を呟きながら俺の肩口に額を置いた。茉莉花に視線をやるとアイツは黙って後ろを向く。これで邪魔はない。
今も昔も俺に甘えるのが上手い葵が、部屋に溶けそうな柔らかい声で俺の名前を呼ぶ。華奢な肩を撫で頬にキスを落とすと、こいつは嬉しそうに笑みを漏らした。 ここで犯してやってもいいんだが……流石にかなこや寮長にバレる可能性が高い。ひとまずお預けということにして葵の脇腹をくすぐると、彼はびくりと体を震わせた。相変わらずいい反応だ。
「やだ、まりや……!」
「嬉しいくせに」
「ちがっ……くすぐった、」
「嬉しいだろ?」
「あ、やだ、やっ」
「なぁ葵……」
「う、嬉しい! 嬉しいよ!!」
「なら止める必要はないな。ほら、もっと喜べ」
女よりも僅かに筋張った喉を反らし涙混じりに喘ぐこいつがたまらない。
上手に媚びたらキスしてやるよと囁くと、少年は期待を含んだ眼差しで俺を捕えた。偽物の胸を揉みしだくと葵が惚けた顔でそれを見下ろして、俺はにやりと微笑みながら可愛い幼なじみの頭を撫でてやった。
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