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白澤目線
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「ねえ、アイツのどこが好きなの?」

 最後のひと匙をすり鉢に放る寸前、白澤は何の気もなしにそう訊ねた。閻魔大王の第一補佐官という仰々しい役につく男と色事の仲にある青年を前にして、鼻の先に迫る、依頼された薬の納期という現実から目を背けたいのかもしれない。興味というには些か不純な動機が白澤にはあった。
 数分前に出された茶を口に運ぶ譲羽の目が幾度か瞬いて、茶を含む前にその湯呑みは彼の胸の前へと戻る。女の香りに誘われ仕事を投げ出す男とは違い、つまらぬ質問も適当にいなすことはせず律儀に答える、そんな好青年である。

「……好きなところ、ですか?」

 質問の内容を繰り返す青年の頬がほんのり赤く染まる。白澤には男色の趣味はなかったし、男という存在は空気中に存在する元素とそう大差ないと思っていたが、童顔で純情な彼が照れ恥じらう姿は純粋に可愛いものだなと感じる。「あーんな朴念仁のどこがイイのか、ちょっと不思議なんだよね」などと軽く切り返すと、譲羽は僅かに首を傾げて唸った。

「優しくて……聡明なところ、でしょうか……」

 嘘つけ、と白澤は胸の内でツッコミを入れた。少なくとも彼と恋仲にある男・鬼灯は、白澤には優しさを微塵も感じさせない態度を取るばかりだ。譲羽の言う聡明という単語に関しては役職から見て納得せざるを得ないとしても、アレが優しいというのなら世の中の大半のものは優しいと言って相違ない。そう思って譲羽を説得しようとしたが、白澤は思いとどまってフーンと気のない相槌を打ち、そして手に持った匙に乗る葉をすり鉢へと落とした。

 例えば譲羽が女であったなら、白澤は黙っていなかったはずである。あんな無愛想な朴念仁より、愛想のいい自分といた方がよっぽど有意義で楽しいと、そう力説したに違いない。華奢な肩を抱いて好意を仄めかす言葉を囁くのもいいだろう。色恋に疎く照れやすい譲羽はきっと頬を赤くしてしどろもどろになったはずだし、好意を無碍に出来ない性格につけ込むのも容易いはず。空想の中の譲羽という女性を口説くのは何とも愉悦じみていて、白澤はフフと笑みを漏らして匙を置いた。薬草を砕き混ぜた粉末を包み紙に流し込んで、丁寧に紙を折り曲げる。それを更に、小さな紙の包み紙へ入れた。

「はい、どうぞ。ないとは思うけど、アルコールで服用しないように。ちゃんとお香ちゃんに伝えておいてね」

「分かりました。ありがとうございます、白澤様」

「どういたしまして。お香ちゃんの頼みなら仕方ないからね」

 男である鬼灯や譲羽の頼みを聞くのは好まない白澤だったが、女性から直接電話で、急ぎで物が欲しいと言われては従う他にない。茶色い紙袋に包まれた薬を譲羽に手渡すと、白い指がそれを受け取った。

 譲羽は中性的な見てくれで、不意に男としての認識が甘くなる瞬間がある。白澤にとってそれは非常に大きな問題であって、そういうとき、例えば今のように、男のわりに細く滑らかで白い指先を目視したときなどは、白澤は普段ならば取らない行動を取ってしまうのだ。

「……貧血気味なんじゃない?」

 紙袋の上から彼の指先を手で覆う。ひんやりと冷えた温度が白澤の手の平に伝わってくる。ああまたやってしまったと内心で後悔するものの、それを笑ったり叱ったりするいわゆるストッパー的な存在が、生憎今は留守にしていた。いっそ変に慌てるよりは流した方がいいと、白澤は言葉を続ける。

「あの仕事中毒に付き合って仕事してると、体壊すよ。まあ僕には関係ないけど」

 そう言って手を離す。譲羽は何故触られたのか不思議そうな顔をしていたが、白澤は追及を許さずに手で追い払う仕草をした。最近忙しくてあんまり女の子と遊んでなかったからちょっと感覚が変になっててほんの気の迷いで譲羽くんを女の子だと思ってしまっただけで断じて僕の意思で手を握ったわけじゃない!
 必死に言い訳を頭の中で繰り返す。入り口の前に立った譲羽がくるりと半身を翻し、にこりと笑ってみせた。ああ、やはり笑った顔は少し女性的だなと思う。

「お薬と心配、ありがとうございます、白澤様」

 痩身の後ろ姿を見送りながら苦々しげな、複雑な表情を浮かべつつ、白澤は次に納品する薬を煎じることにした。

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15????