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秀吉の甥(刑部と)
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「やれ若殿、我はこの通り寝ておるのよ。遊び相手なら左近にしやれ」

 朝餉が終わり、薬を飲み、肌を覆う痛みが引くまで暫し眠ろうと思い横になろうとした所であった。けたたましい声で我が名を呼び、意気揚々と襖を開けたは太閤が甥である。朝日の差し込む刻限とて病床に伏せる者の寝床へ掛ける声音ではないと窘めんとしたものの、春陽が如き子供はにへらにへらと笑うばかり。やれ、また頭が痛む。

「ねえねえ刑部! お外、いい天気だよ! 一緒にお散歩しよ!」

「……若殿よ、我はぬしと違って元気が余っておらなんだ。陽の下へ晒されれば伏せってしまうのよ」

「でも左近と遊んでた!」

 果たしてそれを遊戯と例えて良いものか、分からぬ。さりとて駄々を捏ねる春陽の若殿も引く気はないようで、開いた戸の合間から膝をつきにじり寄る。このような薄気味悪い人間に構いたがる理由を我は知り得ぬ。三成といい若殿といい、好き者の寄る性質でもあるのやもしれなんだ。
 深く息を吐き出し折角横たえた体を持ち上げ起き上がると、春陽の若殿は立ち上がり詰め寄った。包帯により皮膚の見えぬ我の腕を取り蕪でも抜くよう引き上げる。これでは体が幾つあれども身が持たぬ。早急に左近めを呼ばねばと、そう思うておったとき、聞き慣れた声が中庭から響いた。

「刑部、抵抗せず降りて来い。八尋様は見識を深めんとしておいでだ」

 これは、なんと。中庭より我の部屋を窺う男は三成であった。若殿が大阪城へ赴いた初日以来三成には近寄りもせぬというのに、今は彼の凶王と共におるではないか。何が起きたかさっぱり分からぬ。しかし若殿は三成に「次は左近も!」などと声を掛けており、また分からぬ。我の知らぬ短期のうちに打ち解けたのやもしれぬ。

「……マイッタ、マイッタ。三成も連れ出されたか。では我も付き合おう春陽の若殿よ。しかしてそう腕を引かれては、腕が抜け落ちてしまうなァ」

「あっ、ごめんなさい……じゃあ、お外で待ってるね! 左近も連れてくる!」

「あい分かった」

 我を見る三成の目が「逃げても無駄だ」と訴えよる。やむを得ぬが、若殿の相手は次に呼び出されん左近にでも任せればいいだけのこと。
 子供の力で弛む包帯を巻き直し、我は敷いたばかりの布団を畳むこととした。

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160806