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犬神憑きの話
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 犬神は俺よりも小柄な男だ。人の形をしているときは、俺に合わせてるのか、俺の成長とともに外見を変えているようだった。
 俺が小学生だったときは、俺が好意を寄せていた女子によく似た姿をしていたような気がする。大きな目に、笑うと現れるえくぼを覚えている。

 俺が中学生になると、犬神は俺が好きだと言った芸能人の顔に似た面持ちだった。華奢な肩に、大きな目。笑うとえくぼが出来る顔だった。

 高校生になった今、犬神が誰に似せているのか分からずにいる。記憶の中にある昔の彼の顔はおぼろげで、果たして俺が想像している顔が本当に犬神の顔であったのかも曖昧だ。写真などはもちろん残ってなかったので、もしかしたら、誰かの顔を思い違いしているのかもしれない。
 犬神は華奢だ。小柄で細くて、大きな目をしている。やっぱり笑うとえくぼが出来た。一見しただけならやや高身長な女子にも見える。俺の手に絡ませる指も細く繊細で、無骨な男とは違うように感じた。

「犬神さんって顔変えたり出来る?」

 テレビを見ながら何の気なしに聞いてみる。ベッドに腰掛ける俺の膝に座る犬神もまたテレビを見ていたが、俺が問いかけるとすぐに顔を上げた。大きくて黒い瞳がこちらを捉える。

「出来るよ。京治はこの顔は嫌いか?」

「いや、そういうんじゃないけど。犬神さんって、俺の好きになる人の顔に似てるからさ」

 ふむ、と犬神が呟く。ぐるりと体を回して、俺の膝の上で向かい合わせに座る彼の顔は中性的で可愛らしい。俺は彼に、きっと恋をしている。

「わたしはずっとこの顔だよ、京治。顔は変えられるが、変えたことはない。お前に忘れられるのは哀しいから。ずっとこの顔だよ」

「え……」

「京治はわたしの顔とよく似たヒトに焦がれるのかもしれないね。でも京治、お前はわたしのものだから、ヒトには渡さないよ」

 そう言われて見ればそんなような気もしてくる。犬神は俺が物心つくときには既にいたし、俺が好きになるのは小柄で目の大きい子だったし、笑うとえくぼが現れる、可愛い顔だった。変化したのは犬神の顔ではなく、俺の好みが犬神の顔に変わっていったのだろうか。

「京治、顔が赤いよ。熱があるのか? 寝るか?」

「あ……いや。平気。恥ずかしいだけ」

「恥ずかしい? 何故?」

「……犬神さんのこと、好きなんだなって思ったから」

「恥ずかしがることはないよ。京治がわたしを愛してるのも、わたしが京治を愛してるのも、当たり前のこと。お前は愛しい子だね、京治」

 こうやって甘やかすから、俺は彼を好きになってしまうんだと思う。人間が踏み入ることのない領域に引きずり込まれているのは分かっているが、近頃、それも悪くないのでは、と思うようになっている。これは多分、いけないことだ。

「犬神さん、俺……」

「可愛い京治。お前が死ぬまで、愛してあげようね」

 そう言って、犬神は笑った。

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1508??