売りの話
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部屋の鍵を開け青年を先に通し片手で電気をつける。あまりこの部屋で生活らしい生活を営むつもりがなかったため比較的質素すぎる内装だが、来客時には片付ける手間が省けてよかったかもしれない。
「結構いいマンションだね。お兄さんひょっとしてお金持ち?」
「まさか。しがないフリーターさ」
表の顔ではね、というのは心の中で付け足しておく。興味深そうに僕の部屋を見回した青年だが、それもすぐに終わったようで、僕が部屋に入るのを廊下の傍らでぼんやりと待っていた。
「お腹は空いていないかい? ご飯はもう食べたかな」
「……まだ」
青年が薄っぺらい腹を撫でて呟く。僕はポアロで軽いまかないを頂いたので何も食料は買って来なかったのだが、幸いに冷蔵庫の中にいくつか食材があったため、彼のために炒飯を作ることにした。一人暮らしで、炊いた白米を冷凍する小技を滞りなく行っていてよかったなと思う瞬間である。
「ご馳走してくれんの?」
「あり合わせだけどね」
僕の隣、少し離れた位置で調理の様子を窺う青年は手持ち無沙汰そうだ。普段はホテルでルームサービスでもせびっているのかもしれない。
簡単に料理し、皿へ盛り付け、リビングのテーブルへそれを並べる。スプーンと水を用意して青年をイスに座るよう促すと、彼はもそもそとそれを食べはじめた。それなりに空腹だったようで、育ち盛りの青年らしくかき込む速度は速い。
「他人の手料理っれ……ひはひぶりかも」
僕はそう、とだけ相槌を打った。彼が普段どのような食生活を送っているかなど一片の興味もなかったし、今日は少し疲れていたし、何より明日は組織の組員として行動を起こす予定もあるため、僕は率先して早く眠りたかった。
「僕はシャワーを浴びてくるよ。好きにテレビを見てくれて構わないし、食器はそのまま置いておいてくれ。あと、あまり部屋は散らかさないようにね」
青年の食事が終わるまで待つのもバカらしい。僕は浴室へ向かった。財布と携帯電話は念のため脱衣所に置きシャワーを浴びる。金は手に入れたのだし、もしかしたら青年はさっさとこの家を去る可能性もあったが、それはそれで面倒事が一つ消えるということなので僕にとっては好都合だ。
髪と体を手早く洗って浴室を出た僕は、タオルで髪を拭きながらリビングへ向かった。消えていたはずのテレビにはバラエティー番組が映っていて、食事を終えたらしい青年は関心なさそうな顔でそれを見つめていた。
「俺もシャワー浴びた方がいい?」
こちらを振り返る青年が問いかける。どちらだって構いはしないが、タバコの臭いの染み付いたシャツで僕の家具に寝転がられるのが嫌だったので頷いておいた。
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15????