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及川×夢主♀
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 自分が浮気性だということは、中学の頃から分かっていた。及川は多少難のある性格をカバー出来るだけの容姿と体格に恵まれていたし、表現が多少歪んでいるだけで女子に対しては特に物腰柔らかであったし、告白を受けることも多かった。彼女にする女性を選べる、という精神的なアドバンテージも浮気性に拍車をかけていたように思う。だからこそ、自分が気に入った少女が自分の交際の申し出を断ったとき、及川は岩泉に殴られたときのような強い衝撃を受けた。

「ごめんなさい……無理、です……」

 掠れた細い拒絶は今でも耳にこびり付いている。しばらくはバレー部の練習にも精が出なかったのをぼんやりと覚えている。実際あの頃の及川は絶望のあまり日々の生活も疎かになっていたため記憶らしい記憶というものが抜け落ちていた。起きて、学校に行って、部活をして、帰って寝る。そんな繰り返しだったとしか思い出せない。

 それでもめげることなく交際を迫り、今こうして肩を並べて街中を歩めることになったのだから、諦めないということは重要なのだなと感じた。

「ねぇねぇみーちゃん、喉渇かない? 俺、疲れちゃった。休憩したいな〜なんて♥」

 小柄な恋人に甘えるようにして顔を覗き込むと、彼女は及川を見てくすりと笑う。及川が彼女の疲労を案じて休憩を提示したことを、彼女もまた理解しているようだった。
 幸い駅前には喫茶店がチラホラ存在するため、その中の雰囲気のよさそうな店舗に入っていく。さりげなく彼女の荷物を持ち、腰に腕を回してエスコートする。豊富な恋愛経験がこうして大切な人のために役に立つのだから、経験はしておくもんだなと及川は心の中で思う。

「ありがとう、及川くん」

「と、お、る、くん。でしょ?」

「……徹、くん」

「うーん、可愛い♥」

 ベタベタに甘やかしたい気持ちが顔に出ているため、幼馴染みの岩泉が今の及川を見たらさぞ気味悪がるだろうという自覚がある。恥ずかしがって名前を呼びたがらない彼女も、呼ぶように示され辿々しく繰り返す彼女も、全てが可愛い。随分下の位置にある小さな頭にキスを落とすと、彼女は顔を真っ赤にして及川の服の裾を握った。このままでは自分は恋人にキュン死させられてしまうと思ったものの、それはそれで本望だと、及川は彼女の手を引くのである。

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1507??