幸村と
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「清良様、共に団子を食らいましょうぞ!」

 ある晴れた春の日の昼だった。お屋敷でうたた寝をしていた私に、幸村様がそう叫んだ。沈むようなまどろみの中では幸村様の熱いお声もどこか遠くて、私はいつの間にやら縁側に預けていた体をゆっくりと持ち上げる。どのくらいの時間そうしていたかは分からないが、固まった関節が少し痛んだ。

「む、清良様、昼寝中でござりましたか?」

 私の横に来た幸村様が顔を覗き込む。眠気にぽわりと歪む視界で、幸村様はお団子片手に私を見つめていた。

「はい……いいお天気で……」

 姿勢を正そうとすると、幸村様は「そのままで構いませぬ!」と笑った。せめて縁側に座り直した私の横に幸村様が座り、手に持っていたお団子を食べ始める。暖かい日差しとお団子を食べる幸村様はとてもよくお似合いで、私はそれを見ながらクスリと笑った。

「どうかなさったでござるか?」

「いいえ。……幸村様は可愛らしい、と思いまして」

 私がそう言うと彼は驚いたように目を見開いて、はっはっはっ、と豪快に笑い声を上げた。串についたお団子を全て平らげ、多分私の分であろうお団子をこちらに突き付ける。勢いに押され思わずそれを受け取ると、幸村様がずい、とお顔を近付けた。

「可愛いのは清良様の方でござる。某はこうしてお可愛らしい貴殿と共に団子を食せるだけで幸せにござりますぞ!」

 恥ずかしげもなくそう言われて、私は少し照れながらお団子を口に運んだ。ほんのり甘いこれはきっと、佐助様がお作りになったのだろう。

「私も……幸せです」

 私も幸村様も、照れて誤魔化すように視線を移しそう返した。空はまだ高く青く、私たちは流れる雲を眺め続けている。
 ある平和な、春の日のことだった。

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