姫と忍
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「好きですよ、小太郎」

 私の眼前に控える小太郎は答えない。いつもと同じく口を閉ざし、こちらに頭を下げ、身動きすらせずただそこにいた。呼吸の音が1つ聞こえるばかりのこの部屋で、私は手に持っていた扇子を床に置いて彼の方へと手を伸ばす。それを見ているのか見ていないのか、小太郎はやはり置物のように沈黙していた。

「小太郎、こちらに」

 命じれば、音もなく彼は距離を詰める。瞳は見えないが、それは綺麗な顔だと思った。彼の見えない視線が私を見つめているのが分かる。外気に曝され冷えている彼の頬を撫でると、小太郎は顔を寄せた。
 お爺様が私に下さった、伝説の忍。北条最強の傭兵は、常に私の傍に。
 小太郎の手が伸びて、今度は私の頬が撫でられる。少し骨張った、冷たい大きな手。この手にかかって死ぬならば……そんなことを考えてしまうと、不思議と死がとても近い存在に感じてしまう。考えてはならないことなのだろう。

「小太郎……貴方を愛しています」

 優しい手に頬を擦り寄せて、愛しい彼に囁いた。無口な彼は言葉にはしないが、それでも彼の唇は微かな微笑を私に示している。
 暖かい唇が頬や唇に何度も触れて、私は彼の手を強く握り締めた。

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