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夢主♀
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「元就様、私は人参が嫌いなのです」

 普段は比較的淑やかな清良がはっきりと言ったのは、そんな言葉であった。彼女を呼び付け強引に昼食を共にさせていた元就は眉間に皺を寄せる。膳には白米に味噌で煮た魚、それに家畜の肉を使った料理と野菜の和え物、味噌汁が並んでいた。

「……だから何だと申すのだ」

 元就とそう離れていない位置に座る清良は苦々しげに目を伏せている。当の本人からすれば嫌いなものが入っている料理は食べたくない。しかし元就にとっての食事はあくまでも栄養摂取であり、そもそも好きだとか嫌いだとかいう認識が間違っていた。野菜も肉も魚も穀物も、満遍なく取り入れることが重要なのである。
 そしてそんな元就の考えを知っているからこそ、清良は怒られるのを承知で断定的に告げていた。

「他のお野菜は頂きます。でも、人参だけは……」

 見るのも嫌だと言わんばかりの表情を受けて元就はため息をつく。

「貴様は食事を何だと思っている。腹に溜まればよい訳ではないのだぞ」

「でも、」

「人参は良薬にも用いられる万能な材料だ。食せ」

「でも……」

 同じく強固な姿勢で、元就は許さないと断じた。日頃から冷たいと称される瞳は今は更に鋭く細められていて、清良は小さく唸ったあとに人参を摘む。円形に薄く切られた人参はそのまま口にされることもなく宙に静止し、いつまでも食べようとしない清良にやがて業を煮やした元就は立ち上がると、すっかり肩を落とす彼女の元へと歩み寄った。

「口を開けろ」

「え……元就様?」

「早くしろ。我に貴様の守をする暇などないのは知っておろう」

「は、はい……」

 箸を奪われその先に再び人参が挟まれる。清良が泣きそうになった瞬間、ふと視界が黒く塗り潰された。 唇に微かな感触が触れ僅かに口を開くとフッと笑う音が聞こえた。ややもすると口の中に薄く平たい人参が入ってきて、清良は泣く泣くそれを噛み締めた。

「そうだ、良く出来たではないか」

 視界を塞がれた中でも清良の脳裏には優しげな微笑が過りなんとか人参を飲み下す。子供を撫でる親のような手つきで頭を撫でられるのは久しくて、自分の胸が強く脈打つのを感じた。しばらくすると手は離れていき、明るい視野に捉えた満足気な元就に、清良は再び目を伏せた。
 どこまでが策かは分からないが、それでもこうして触れ合えることは嬉しく思う。次はどの野菜で試そうかと、清良は唇に淡く笑みを乗せるのだった。

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