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お題:シリアス、割り箸
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ヨハン お題:割り箸、シリアス

「俺さ、今すげー幸せだよ」

 おにぎりを食べていた渚がふと顔を上げてこっちを向いた。唇の端についたご飯粒を取って、もったいなかったからそのまま口に含むとその顔が赤くなる。昔に比べると、いや比べなくても、こんな些細なことが幸せだ。

「渚はさ、精霊見えないのに優しいだろ。俺にも、十代にも」

 渚は黙って俺を見つめている。俺の知ってる人はみんな、精霊が見えると言えば口々に馬鹿にしたような笑みを浮かべながら気のせいだとか錯覚だとか諭すやつばかりだった。でも渚は違う。俺がそれを告白したらきょとんとしながらもすぐに「十代と一緒なんだね!」と言って笑いかけてきた。
 見えないのに、俺の言葉を信じてくれる。それは俺にとってはじめての反応で、凄く、嬉しかった。

 渚に教えて貰った通りにわりばしを操りたくあんを摘むと、まるで子供みたいに渚の口があーんと開いて、俺も思わず笑いながらその中にたくあんを入れてやった。ぽりぽり口を動かす仕草に心を射ぬかれている俺が間抜けなんだろうか。

「……だって、本当だろ?」

 俺は頷く。たくあんを飲み込んだ渚は今度はおにぎりにかじりついて、それからくつくつと笑ってみせた。

「精霊はあんまり信じてないけどさ、ヨハンのことは信じてる。だからヨハンが精霊はいるって言うなら、それを信じるよ」

「渚……」

 にっこりと笑う渚を抱き締めた。華奢な体はぎゅっと抱き込むと壊れてしまいそうに小さくて、それなのに俺を救ってくれる暖かさに胸が熱くなった。
 遠くない未来、俺は渚と別れる日がやってくる。決して先延ばしに出来ない選択から逃れるように腕に力を込めた俺の背中を撫でる渚の手は、やっぱり泣きそうになるくらい優しかった。

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