Lの付き人
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 エドに対する感情が親友に対するそれではなく、劣情を伴うものと気付いたのはLが所謂思春期に差し掛かった頃だった。ワイミーズハウスという世間から隔離された空間で生活してきたLにとって精神の成長というものは実感を得ない影のような感覚で、更にいえば彼は他人に関する関心も、物事に関する好奇心すらも乏しかった。狭い世間と狭義の興味、それこそが今存在する"L"を形成する要因ではあったが、何より問題なのは彼は彼の周りでいち社会を構築することが著しく下手だということだった。

 以前より、Lとエドは互いの距離が近かった。他者に対する警戒心の薄いエドが毛色の違うLに寄り添っていた部分は大きいが、それでも互いを知るにつれ両者とも好んで側にいることが増えた。同室になり、朝から晩まで共にいる。争いも口論すらもなくだ。親密な仲になり、互いの体に触れ合うことが増えたのもその頃だった。
 初めは肩だ。エドがLの肩に手を置き、そしてLがエドの服の裾を引くようになった。次第に布を掴んでいた手がエドの手を取るようになり、同じベッドで丸くなって眠りにつくようになった。他人の肌の温もりを感じた記憶がほとんどないLからすれば、手を伸ばせば届く距離にある熱は不思議な存在だと思ったのを彼は覚えている。小さな手を握って、額同士をくっつけて笑い合った。テレビで見た愛情表現を真似て、キスもした。

 Lが十代半ばになる頃、彼の体に変化が起きた。成長期に伴い起こる声変わりと精通。身に起こるべき事柄の知識は既に得ていたため騒ぎこそしなかったものの、エドに対する接触行為がもたらす結果を、Lは文字通り身をもって知ることとなる。

「L、なんか、あたってる……」

 身長が伸び始めたLに対し、エドの発育は遅かったように思う。細い体、小さな手の平、こじんまりとした丸い頭。背後から抱き締めて柔らかい髪に鼻を埋めて空想にふけっていたとき、音量を控えた高い声が言った。エドが後ろを振り返り違和感のある腰の辺りに目を落とす。動きやすいワークパンツの下腹部辺りが妙に膨らんでいるのを見たエドは不思議そうに首を傾げている。ああ、彼はまだその知識がないのか、とLはすぐに見当がついた。

「エド、手伝ってくれるか?」

 何を、とは言わずにおく。疑問符を浮かべながら不自然な下腹の膨らみに目を落としていたエドが顔をあげてLを見やった。何を望まれているかを分からない幼い少年はいつものように微笑んで頷いてみせる。無知な子供を騙すようで若干の心苦しさはあったが、それでも込み上げる情欲には抗えずLはエドの体をベッドへ押し倒した。

「L……?」

 ひと回りもふた回りも小さな体は、幼い頃に十分な食事を得られなかったからだろうか。それでも施設に連れてこられたときよりは幾分か肉もついたはず。白いシャツから垣間見える脇腹に手を差し込むと、滑らかで吸い付くような肌を手の平で感じた。粗忽で骨ばかりの自分と違い、本当に男なのかと疑うような心地良い手触りだ。華奢な腰に跨るようにして上に乗り、両手をシャツの中に滑り込ませる。腹を撫でるようにしてゆっくりとシャツを持ち上げるとエドが抵抗の意思を持ってLの腕に手を乗せた。

「……エド、手を退けて」

 そう声を掛けると少年の細い肩が微かに弾んだ。数秒間悩み、Lの腕を押さえる手がじりじりと脇へ移動する。それを見守り再びシャツをたくし上げたとき、Lは彼が抵抗した理由を知った。

「これは……」

 白くて細くて薄っぺらい小さな体だ。その体には無数の傷跡が残っていた。薄い赤紫をした痣、おびただしい数の細長い切り傷、脇から背中へ続く火傷の痕……彼が施設に来て以来、他の子供たちと共に入浴することがなかったためある程度察してはいたが、実際に目にしたときの衝撃は筆舌に尽くしがたい。冷静なLですら思わず言葉を失いその体を凝視してほどだ。エドはその視線に耐え切れず両腕を顔の前に掲げてしまった。合間から見える唇はきつく噛み締められている。

「み……ない、で……」

 食いしばった歯の隙間から悲痛な声が漏れる。人は何故、無垢な子供にまで残酷な仕打ちを与えることが出来るのだろう。今にも泣き出しそうに震えるエドの腹をさすり、Lは痛々しい傷跡に覆われた肌にキスをした。シャツを少しずつ上へずらし、へそから胸にかけて何度も何度も口付ける。白い肌はどこか甘い味がして、何となく、バニラアイスのようだと思った。Lはそれを舐めることにすぐに夢中になった。柔らかくて、暖かくて、甘くて、いい匂いがする。鳩尾に鼻を押し付け深呼吸すると、エドはくすぐったそうに僅かに身じろいだ。胸が痛む映像に多少気持ちも萎えていたものの、羞恥と困惑に身悶えるエドの反応で再び自分が高揚するのが分かった。

「傷があろうがなかろうが、エドはエドだ。そうだろう?」

 平べったい胸元を舌で辿りそう呟く。腕で隠れていたエドの顔が合間からLを覗くように窺い見る。瞳はやはり濡れていて、彼は思ったよりも脆いのだと知った。

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150711