影山×近所のお兄ちゃん
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修兄はいつでも俺の言うことを聞いてくれる。アレをやれと言えばやるし、コレをしろと言えばする。それに気付いたのは俺が中学2年に上がった頃、つまり中学3年だった修兄が高校1年に上がった頃だった。部活動が終わって部室で帰り支度をしてるとき、何の拍子かは忘れたけど、同級生に言われたのだ。「俺は風見さんみたいにお前の言うことを全て聞かない」と。
マヌケなもので、その時初めて修兄が俺の言うことを全て聞いてくれていたのだと知った。昔から修兄はそうだったので、それが当たり前というか、とにかく、俺の言葉に拒否を示す修兄を見たことがなかったのだ。
「かざぽん勉強教えてくんね? 俺今回ちょっと自信ないんだよな〜」
弱気な声を出すのは菅原さんだ。練習が終わり烏野排球部の部室で着替えている俺たちは各々に話をしてカバンの中に服を詰めている。
「そう言ってスガ余裕じゃん。スガの勉強に休日は費やせません」
「頼むって〜! お前の教え方先生より分かりやすいんだよマジで〜!」
「ダーメ。休み時間とかならいいけど今週末は無理」
頑なだ。多分俺が言えば修兄は忙しくても時間を割く気がする。俺の知らなかった修兄の否定の言葉に違和感を覚える。
「チェッ。かざぽん影山には優しいけど俺らには冷たいよな〜」
「……みんな平等に接してるだろ?」
修兄の言葉に澤村さん、東峰さん、田中さん、西谷さんが同時に「それはない」とツッコミを入れた。荷物をまとめ終わったらしい月島がカバンを持って修兄を振り返る。
「修一さんは世界で一番王様を甘やかしてるじゃないですか」
「そうそう! 影山のお弁当って修一さんの手作りって聞きました!」
「うるさい山口。早く支度しろ」
「ごめんツッキー!」
何で俺の弁当が修兄の手作りって知ってんだよ……と思う間もなく、ちゃっかり聞いていた日向がモタモタと体操着から頭を抜く。ボサボサになった髪は気にしないようだ。
「修一さん、影山のお弁当も夕飯も作ってるんですよね!?」
「ああ……うん。飛雄はちゃんと完食してくれるから嬉しくてさ。それにお弁当も自分の分のついでだから」
その言葉は恐らく半分ホントで半分ウソだと思う。修兄が俺の弁当を用意しはじめたのは俺が高校に入学してすぐで、それ以前は売店でパンを買っていると言っていたはずだ。ついでなのは俺の弁当ではなくて、多分自分の方だろう。
跳ね放題の日向の頭を修兄が撫でる。髪が落ち着いて元に戻ると、派手な色をした頭をポンと叩いた。
「翔陽も今度うちにおいで。ご飯ごちそうするよ」
「ホントですか!?」
「ホントホント。料理は得意なんだ、こう見えて」
何となくムッとする。俺の眉間にシワが寄るのに目ざとく気付いた月島がまたあの腹の立つ笑い方で口に手を当てる。
「なに王様、日向に修一さん取られてご立腹なわけ? ウケるんだけど〜」
「あ"!? 月島てめー……!」
内心でほんの少し感じていた苛立ちを読み取られたような、頭の中を読まれたような、言葉にできない感覚をよりによって月島に指摘されて頭にきた俺が怒鳴るのと同時だった。ぐるぐるぐる……という派手な音が2つ。俺と日向が同じタイミングで腹に手を当てる。
ぷっ、と菅原さんが吹き出した。それに続いて先輩たちが笑い始め、修兄までもがクスクス笑い出す。月島は呆れたような妙な顔をしていた。
「……さあ、帰ってご飯にしようか。飛雄と翔陽のお腹も限界みたいだしね」
ほんの少し恥ずかしくなって、目をそらして自分の荷物を肩にかける。笑いを引っ込めた修兄の手が俺の頭に伸びて、日向にやったよりも優しく、くしゃくしゃに髪を撫で回した。
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150423