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主人格と
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 午前9時の駅前は人が少ない。少ないと言えどもやはり駅は駅なのでそれなりに人は集まるが、それでも通勤ラッシュの時間帯に比べれば人影などまばらなものだった。時計を確認しながら歩くスーツ姿の男、電話で誰かと会話しながら窓ガラスに映る自分の髪を整える女、誰も彼も忙しそうである。

「麻人、遅いなぁ……」

 誰を模したかも分からない銅像に寄りかかるマリクが独りごちる。横目に確認した腕時計は9時を10分ほど回っていて、待ち合わせ時刻からもまた同じだけ時が過ぎていることを知った。"寝坊しちゃった! 遅れるごめん!!"というメールが携帯に届いてから早20分、そろそろ心配もピークに達したマリクが麻人を迎えに行こうかと銅像から背を離したとき、通りの向こうから大きな声が聞こえた。

「マーリークー!!」

 道行く人々の視線が道路の向こうではしゃぐ麻人を見て、次に麻人の目線の先にいるマリクへと移る。元気の塊は今日も元気なようで、彼はちぎれんばかりの勢いで手を振っていた。大声で名前を呼ばれ一瞬羞恥心にたじろぎそうになったが、それでも満面の笑みを受けたマリクも苦笑いを返しながら控えめに手を振った。

「ごめんねマリク、超、走ったんだけど、遅れた!!」

 信号が青に変わった途端に駆け出した少年が、器用に人垣を避けつつマリクの元へと走り寄る。肩で息を切りながらも必死に弁明する姿に、彼が相当急いで待ち合わせ場所に駆けつけたことは明白だ。そんな麻人に気付いたマリクはニコリと笑みを浮かべ、自分の元へ走り寄った、随分と低い位置にある柔らかい髪を撫でた。

「ボクはそんなに待ってないから大丈夫。でも麻人、言ってくれたら迎えに行ったのに……」

「いいよー、悪いし!」

 実は約束した9時の30分前から待っていたのだが、それはいかにも楽しみにしていましたと言わんばかりのため黙っておいた。制服姿よりも大分幼く見える私服の麻人に手を差し出すと彼は素直にそれを受けて、そしてようやくデートが開始する。駅前で買ったクレープを片手に手を繋いで歩く少年2人は目立ったが、しかし陽気な麻人がはしゃぎまくるお陰で好奇の目で見られることは少なかった。恐らく自分は留学生か何かだと思われているんだろうなとマリクは解釈し、小柄な恋人がはぐれてしまわないよう体を引き寄せる。

「なぁマリク、あとで買い物付き合って!」

「もちろんさ! ボクもね、行きたいお店があるんだけど」

「オッケー! どこまでもついてくよー!」

「フフ、一生ボクについてきてね、麻人」

「うん? うん、いいよー!!」

 人混みは再び徐々に増えはじめ、窮屈に見えがちな視界に沢山の人が移っては過ぎていく。手をぎゅっと握りしめ嬉しそうにはにかむ恋人に優しく微笑みかけて、マリクと麻人は青空の下を歩いていった。

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