阿含のお気に入り
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 俺はブスが嫌いだ。女は顔。男も顔。そしてなるべく使える奴がいい。100年に1人と謳われる天才のこの俺には、それくらいでなければ釣り合わないのだ。

「よお修二。兄ちゃんは元気か?」

 そんなハッキリ好きと嫌いを隔てる俺の中でただ1人だけ、気になる野郎がいた。ヒル魔弟。名前を修二という。
 特別な天才じゃねえ。成績は上位には食い込むがトップでもなく、常に予習復習を欠かさない努力タイプの男だ。普段の俺ならば気に入らないタイプだというのに、どうもこいつに限ってはそれは違っていた。いつもヘラヘラ笑う顔もまあ悪くないし。というよりまあまあ俺のタイプだ。あのクソみてえに狡いだけの野郎の弟とは到底思えねえ。

「あ……阿含さん! どうしてここに?」

 校門付近で待ちぶせしていたガキに声をかけると、こいつは実に意外そうな顔をして俺の顔を覗き込んできた。くりっとしたでけえ目が物怖じ1つせず俺を捉える。サングラス越しにも分かるその独特の存在感に自然と口角が吊り上がる。

「そりゃあテメーに会うためだろ。でなけりゃわざわざこっちまで来るか。バカかよテメーは」

 そうなんだ、ごめんなさい。くるくると明るく笑いながら言うこいつの頭はどうかしている。自分よりデカイ男にこんだけ言われりゃ普通ビビるもんだろうが、そこはあの野郎の弟か。全く気にもしていない笑顔でそんな風に謝ってきた。

「お兄ちゃんはいねえのか? あのブラコン野郎ならいつでも引っ付いてそうなもんだが」

「妖兄は部活で遅くなるってメールが。だから今日は1人で帰るんです」

「ほー、方向音痴が帰れんのか?」

「大丈夫。迷っても、妖兄が描いてくれた地図があります!」

「そうかい。そりゃあよかったな」

 どう考えてもそれは大丈夫ではないだろうが、しかし仮に地図ありきで道に迷ったとしても、あのバカみたいに過保護な兄なら発信機でもパシリでも使ってすぐに探し出すんだろう。揃いも揃ってバカな兄弟は無意味に信頼しあってやがる。帰宅する生徒たちがジロジロと無遠慮にこちらへ視線を向ける中、俺は修二の肩に腕を回して歩き出した。修二は一瞬何事かと戸惑ったようだが、無駄な抵抗もせず大人しくついてくる。こいつは本当にアホだ。もし俺が見境なく女を犯さず性欲を溜めていたら、ひと気のない場所へ引き摺り込んで強姦するレベルだ。

「阿含さん? どこ行くんですか?」

「デート。セックスなしのな」

 制服姿のこいつを私服の俺が連れ回していると流石に警察の職質がうるさいので(多分カツアゲか何かだと思われているのだろう)やはり人気のない場所へ向かう。強姦されたところで傷付いたりキレたりしそうにないこいつは、いつもと同じように俺のあとをついて来た。

「大人しくついて来ていいのか? テメエのケツにチンポぶち込むかもしれないぜ?」

「僕が嫌がったらしないでしょ、阿含さんは」

 にこりと笑顔が返される。細い路地を進み廃墟の中へ足を向けても、警戒1つせずに修二はそう返した。人を魅了する才能なんてものがあるとすれば、それこそそれはこのガキに備わっているに違いねえ。

「ほー。俺がここでお前を殴ってもか?」

「阿含さんは僕を殴ったりしないよ」

 握り締めて見せた手を一回り小さな手が包み込む。これが他の奴だったらボロボロになるまで殴り殺してやったが、こいつは特別だからそうはしない。反対の手で頬を撫で、笑みを描き続ける唇に口付けた。学習能力の高いそれはすぐに開いて、褒美の代わりに中にある舌を吸ってやった。

「んっ……ん……」

 角度を変えながら深く抉るように舌を絡め取る。時折漏れる修二の吐息がエロくて腰に響く。会いにくる前に適当に女引っ掛けといてよかったなァと、俺自身か修二かに向けて内心で呟いた。30分もすればこれのクソ兄貴が、人通りのない場所から動かずにいる弟へ心配の電話かメールをよこしてくるだろう。そんなことになれば萎えるのでとりあえず修二のポケットから携帯を奪い電源を落とした。くすりと笑みを乗せた唇を、悪魔の弟がぺろりと舌で湿らせる。

「妖兄には、阿含さんにレイプされた、って伝えますね」

 別に構いやしない。それを分かっていて告げるこいつは間違いなくあの悪魔と同じ血を引いていて、しかし俺はそれすらも愛しいと思いながら再び小さな唇へ口付けるのだった。

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