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カイザーの前戯は長い話
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 体の奥がずくずくと疼いてたまらなくて、俺は手に触れる白いシーツをぎゅっと握り締めた。体内に潜り込みやんわり中を掻き混ぜる指が酷くもどかしく感じる。ぐちゅぐちゅと厭らしい音が鳴っているのだからもうとっくにそこは解れているだろうに、いつまで経っても骨張った長い指は抜かれなくて、いい加減この無限に続く快楽から解放してほしいと、俺の背後にいる青年に目を向けた。

「痛いか?」

 痛みなんか入り込む隙間すらないくらいに快感へ付け込んでるのは自分だというのに、彼は故意か天然か俺にそう聞いた。全身が汗ばむほどに熱くて気持ちよくて本当は早く亮先輩が欲しくて泣きたいくらいだけど、僅かに残された羞恥がいつもそれを邪魔する。狂ったように泣き叫び入れてくれと懇願出来たらもっとずっと楽なのに、彼の優しく甘い愛撫がいつまでも俺の理性を繋ぎ留めていた。

「りょ……せん、ぱぁ……っ」

 亮先輩、なんて言い慣れた言葉すら喉に引っ掛かってうまく出てこない。それでも彼は薄ら微笑むと俺の火照った頬に唇を寄せて、慈しむような瞳のままで、愛している、なんて囁いた。

「可愛いな……気持ちよさそうでよかった」

「あぁ、は……んっ」

 鼓膜を直に震わせる低い声に背中がぞくぞく粟立った。きゅうと中を締め付けてしまうと彼の指がぐるりと円を描くように柔らかいそこを引っ掻いて、その動きがもたらす感覚にまた体が弾む。シーツを握る手に大きくて温かい手が重なるだけで心臓が強く脈打ち体中の力が抜けた。まるで全身が性感帯にでもなったみたいだとうまく働かない頭で考えた。

「ひぅ……ぁあ、はぁ、あ……せ、ぱい……」

 中を緩く優しく撫でるように攻められ続けたせいで俺の性器は硬く勃ち上がり、白く濁った液体をぽたぽたとシーツに垂らしている。先端から溢れるそれが性器の表面をぬるりと伝う感触さえ気がおかしくなるような、出来ることなら自分の手で扱きたてたいとすら思うほどの快感に苛まれていた。
 彼の前戯はいつもこうだ。俺に痛みを与えないようただひたすらに快感を塗り込み愛を擦り込み俺の頭を支配する。彼の前で浅ましく強請る姿なんか見せたくないのに、結局最後には我慢が出来ず、恥をかなぐり捨ててあられもない格好で亮先輩を求めるのだ。
 今だってそれは同じで、俺が求めるまでいつまでも繰り返される優しすぎる愛撫は、恐らく既に1時間は続いている。決定的に絶頂まで追い上げてくれる刺激のないまま、ずっとその一歩手前を引きずられていくような苦しいほどの快感は地獄にも匹敵すると、俺は知っていた。

「ぃ……っ、れて……ッ」

 顔が焼けるように熱くて心臓がうるさいくらいに鼓動して死にそうだ。自分から男を求めるなんて気が途絶えそうに恥ずかしいのに、しかしそれでもこのまま焦らされるのは堪えきれなかった。この羞恥を越えれば望む快感と大好きな亮先輩が手に入る。そんな必死の思いでどうにか絞りだした言葉を聞いた彼は、小さく喉を鳴らした。

「……そんなに俺が欲しいか?」

 無意識に閉じていた目を開く。彼の瞳はいつもはない色を宿していてぞくりとした。中を穿つ指が引き抜かれて息を吐くと亮先輩の手が俺の腰の辺りをなぞった。今日は何だか意地悪な気がする。普段なら向かい合ってするこの行為も、今日は背中を向けさせられた。ベッドに押し付けられている頬は涙と唾液で湿っていて気持ち悪い。でもそれ以上に彼が触れる場所が熱くてたまらない。

「ほ、しぃ……せんぱいの、いれてぇ……イキたい、なかに、ほしい……っ」

 目をつむることすら出来なくて泣きながら繰り返した。あり得ないはずの場所に確かに喪失感があって、それを彼に埋めて欲しくて哀願する。意地悪しないで、いつもみたいに深く愛して欲しかった。

「……我慢が出来そうにないな」

 ぽつりと呟いたのは俺に対してか彼自身に対してか分からなかったが、カチャカチャとベルトを外す音に次いで押し当てられた熱に、そんなことを考える余裕なんてなくなった。 ぐっと強く腰を引き寄せられ体を割り開かれる感覚に肌が粟立つ。いくら慣らそうとも元々受け入れるのとは逆の目的で存在するそこはいつも最初の挿入に抵抗がある。それでも痛みはなくむしろ快感に似た刺激が尾てい骨から背骨を這いあがっていくのはやはり、彼がたっぷりと時間をかけ、俺の体を解してくれるからだろう。

「ァ……うぁッ、あ、ああぁ……」

 ぐちゅ、という音とともに亮先輩が動きを止める。お尻の奥にしっかりと埋め込まれた熱の塊に体を押し上げられて、俺の性器はだらだらと精液を溢していた。決して勢いのいい射精ではなくゆっくり重力に従うようなそれは体内の熱を一気に解放させてはくれなくて、まるで先ほどまでの亮先輩の愛撫のようにジリジリ体を焦がしていく。シーツを握り締め唾液と精液とはしたなくあがる恍惚とした声を漏らす俺を、亮先輩はどんな目で見ているのだろう。恥ずかしくて怖くて、きつく目を閉じる。
 何時間とも思えるほどの、実際にはほんの数秒足らずの時間、体を硬直させ咥え込んだ愛しい彼の熱を締め付けながら味わった絶頂は意識が飛びそうなほど強い痺れをもたらした。

「弘樹……動くぞ」

 ようやく収まった波に揺られ脱力して荒くなった息を吐き出すと彼が言う。恐らく俺の射精が終わるまで待っていてくれたんだろう。高く上がる腰を掴まれ緩く前後に動かされる。卑猥な音が鳴って耳を犯す。奥の方を突かれるとヒッと情けない声が喉から絞りだされて、ややもすると亮先輩はそこばかりを抉るようになった。

「うああ、あ、ぁあ……ぁ、あぁ……」

 気持ちいい。硬くて熱い性器が奥を穿つ度に視界が白く染まる。さっきイッたばかりと言うのに俺の性器はまただらしなく勃ちあがり先走りを溢れさせている。伸ばされた長い指に性器を掴まれると目の前がチカチカするくらい気持ちよくて思わず腰を揺すった。亮先輩が苦しげに、艶の混じる呻きをあげる。嬉しくて中が収縮したとき、彼は擦れた小さな笑い声を漏らした。

「弘樹がこれほど淫乱だと、俺も大変だ……」

「りょぉ……っ、い、ひぁあ……ッ!」

 どういう意味か聞こうと目を開いた瞬間、性器を握る手に力が込められ反射的に仰け反った。そのままぬめる指でぐちゃぐちゃに揉みしだかれて甘えるような声が漏れる。前戯の優しさからは思い付かないような乱暴な動きで突き上げられた俺は、言葉にすらならない音のみの声と共に2度目の射精を強要された。今度はさっきよりも勢いよく精液が吐き出されるせいで、性器の中を液体が擦る快感に何度も腰が戦慄いた。だがさっきとは違い、亮先輩は動きを止めてくれなかった。
 精液を滴らせている最中の性器を牛の乳にでもするように指で搾り、突かれる度に射精に似た快感を生み出す奥深くを幾度も抉る。歯を食い縛ることも出来ずされるがままの俺は懸命に体を揺らすことで亮先輩の手に性器を擦り付け、それでも一向に治まらない絶頂の渦に飲まれていた。

「ゃああっ……ぅ、ふぁあッ、りょ、りょぉ、せん、ぱ……ぁッ!」

 彼を締め付け深く穿たれる熱を感じながら見上げた瞳はぎらりと光っている。およそ彼とは不釣り合いの、獲物を前にした猛獣のようなそれが俺を見下ろして今度こそ身動きが出来なくなる。彼の目に絡め取られながら再びどくんと熱が弾けて体が震えた。気持ちいい、どうしようもなく体中が痺れている。視界が滲んで唇の端から溢れた唾液がシーツの染みを大きくして、それでももう本当に何も考えられなくてただ喘いだ。熱に擦られるお尻の入り口と奥が、優しく搾られる性器が、シーツに擦られる乳首が、全部が全部、気持ちいい。

「うぁぁ、も、でちゃう……イッ、ちゃ……ぁ、あああ……ッ!!」

 半ば泣き叫ぶようにして告げた言葉は彼を喜ばせるものになったのか、彼ははっ、と息を吐いた。どくりと中に溢れる液体に反応して、今まで僅かな白濁を溢していた俺の性器からまた精液が溢れだす。余韻に震えるそこを丁寧に扱かれて、終わりの見えない快楽の中、今度こそ俺は意識を手放した。

 目が覚めたとき、辺りは明るかった。いくら遮光カーテンが光を遮ろうとも隙間から漏れる日差しが目を焼いて仕方なく頭を持ち上げる。広い部屋。無駄なものはない室内。穏やかな色合いの家具。紛れもない亮先輩の自室は既に見慣れたものとなっていて、俺はまだ覚めない目を時計に向けた。

「起きたか」

 声がしてそちらを振り返ると亮先輩が立っていて、湖を連想させる深い青緑の髪をタオルで拭っていた。下にはジャージを履いているが上半身は裸で、何となく目のやり場に困って視線を彷徨わせる。

「一応体は拭いておいたが、気になるようならシャワーを使うといい」

 口数が少ないせいで誤解されがちだが実際彼はとても優しい。自分の首元や腕を擦ると確かに汗によるベタつきはなくて、俺は小さな声でありがとうと呟いた。タオルを置いてベッド脇に綺麗に畳んで置いてある黒いニットを身に付けて彼が俺に手を伸ばす。黙って見ているとその手がくしゃりと頭を撫でて、俺は照れ臭くて彼の腰に抱き付くことで顔を隠した。鼻先を掠めた彼の香りは、俺の好きなボディソープの香りだった。

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