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先生×生徒
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「弘樹くんは進路について考えていますかニャ?」

 にこにこ笑いかけてくる先生は、腕に抱いたちょっとばかし丸い猫を撫でている。組んだ長い足の上で喉を鳴らす様子はどうにも心地よさそうで羨ましい。俺もああして頭を撫でて貰えたらさぞ気持ちいいことだろうと考えていたら「聞いてますかニャ?」大徳寺先生に再び問われ慌てて顔を上げた。

「あ、いや、その……」

 まだ考えていません。こうして親身に話をしてくれているというのにそう返すのは些か忍びなく口籠もる。目を泳がせていると椅子に座る先生は「どうかニャ?」なんて呟いて、立ちすくみ俯く俺の顔を覗き込んだ。精悍な、男の人の顔立ちがすぐ近くにある。レッド寮の先生の自室に2人きりなどというシチュエーションも相まって俺は緊張のあまり倒れてしまいそうだ。
 しばらくそうしていると、大徳寺先生はふぅと息を吐いた。呆れさせてしまっただろうか。成績優秀、品行方正と評価される俺は案外腑抜けていると思われたかもしれない。頑張ったのに、先生にそんな風に思われたくなかった。優秀で正しく真っ直ぐな道を歩む生徒の鏡でいようと、そうすればきっと先生に褒めて貰えるのだと、そう思って勉学に励んだからこそ、余計そう感じてしまう。
 ぐるぐる脳内を回る映像に目頭が熱くなって唇が震えて、何とか先生の意に沿うような返答をしなければと思えば思うほど俺の頭は真っ白になった。僅かに開閉する唇からはしかし言葉は紡がれなくて、息が舌と歯を擦り抜ける音が鳴るだけだ。

 にゃー、とファラオが鳴く。膝から降りた猫は部屋の入り口に向かうと器用に前脚を使いドアを開けて出ていった。音のみを聞いて硬直していた俺の頭に、何かがぽんぽんと乗った。

「なぁに、君はまだ高校1年生ですから、今決まっていなくても平気ですニャ。先生は、弘樹くんが頑張って成績を上位キープしているは、何か夢のようなものに対する意思の表れなのかと思って聞いただけですニャ」

 だから堅くならなくていいニャ、と笑う大徳寺先生は優しかった。俯いていた顔を上げるとまたぽんぽんと頭を撫でられて、何だかそれだけで何もかもを許された気分になる。

「さて、じゃあお話はおしまいだニャ。そろそろ夕飯の時間なので、弘樹くんも食べ逃さないように気を付けて下さいですニャ」

「先生、俺、」

 椅子から腰を上げた先生に咄嗟に声をかけた。制止するように先生の服の裾を掴んでしまった手に力がこもる。普段頭一つ分より高い位置にある顔が、すぐ目の前にあった。綺麗な顔。眼鏡の向こうの瞳は細められている。近い距離。息を飲むと先生はフフ、と笑った。

「……俺、先生を……教師を、目指してみます」

 するりと口から零れた声はかすれたように小さかったが、ほんの数十センチしか離れていない大徳寺先生には聞き取れたらしい。それも素敵な選択肢ですニャと微笑んだ先生の体がまた離れていって、今度こそ肩を押され部屋を後にした。
 食堂に向かう先生の足取りは酷くゆったりしたもので、俺はその細い背中の少し後ろをついていく。この人の隣に、俺もいつか並ぶときが来るのだろうか。

*****

 私は今でも分からない。何故あの時、少年の体を抱きすくめようとしたのかが。しかし私の言葉のままに動き唇を戦慄かせ、許しを請うように瞳を潤ませる彼の姿を愛しいと思った。この胸に溢れるぬるい温度につける名を、私は知らなかった。

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