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コスプレ
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 これを着ろと差し出された服に腕を通しながら、隣で同じく服を着替えている準くんをこっそり窺う。俺たちは今年の文化祭、レッド寮の目玉をオバケ屋敷としている。そしてその花形とも言えるオバケ役に、彼は半ば強制的に配置されたので不服そうな顔をしていた。準くんにオバケ役を強制するような人間は十代しかいなかったし、しかも俺もちゃっかりオバケ役にされていた辺り本当に抜け目がない。シャツを脱ぎ捨てあらわになった準くんの薄い胸板にちょっとドキッとして咄嗟に目を逸らした。ありがとう十代。

「全く、何故この俺様がオバケごときを演じねばならんのだ……」

 怒り心頭な準くんがぐっと眉間に皺を寄せる。普通激怒している人間は恐ろしいものなのだが、準くんは何分顔が整っている。眉間に皺が寄ろうが歯を食い縛り舌打ちをしようが、どことなく美しいと感じるのだから凄い。いや、もしかしたらそれは俺の目にフィルターが掛かっているせいなのかもしれないけど。

「おい弘樹、聞いているのか?」

「えっ、あ、なに?」

「お前まで十代のようなアホになってくれるな。……そこのコートを取ってくれ」

 顎で示されたのはいつも着ている黒いコートではなく、医療用の、所謂ドクターコートと呼ばれる白衣だった。慌ててそれを手に取り準くんに差し出すと、彼は何も言わずに背を向けて腕を伸ばした。着せろ、ということなのだろう。ごく当然のようにそんなことをする彼が愛おしくなって、俺はコートを開いて彼の腕を袖へと招いた。俺様な準くんがこうして服を着させろと指示を出すのはままあることで、しかしそれは信頼や甘えから来るものだと知れば嬉しい以外の何物でもない。それ故に、俺はMだと言われるのかもしれないが。

「ふん……あとは血糊を適当にぶち撒ければいいんだろう。弘樹も早く着替えろ」

「うん、分かった」

 廃病院をモチーフとしたオバケ屋敷に、綺麗な格好のドクターがいてはまずい。文化祭開始までに足元にある粉末の炭と血糊でメイクをしなければならないし、俺も急いでYシャツの襟を整える。整えてから、身なりのいいオバケじゃダメかと思いもう1度ボタンを外した。

「ほらコートだ。おい、袖口のボタンは掛けとけ。コートを着ると捲れる……全く、貴様もほとほと手間のかかるヤツだな」

「あ、ごめ、」

「いい、動かず立っていろ」

 背後に回った準くんが俺の肩にコートをかけて、するりと手を取った。ひんやりする指が肌に触れるとくすぐったくて逃げようとしたのだが、苛立ったのか乱暴に袖口を引っ張られる。小さなボタンを器用な指先が手早く留めていく。

「弘樹は俺がいなければ何も出来ないな」

 呆れというよりも嬉しそうな声が耳のすぐ側で笑った。準くんの腕が、胸が、体に当たって、ドキドキと脈打つ心臓の音が彼にも聞こえてしまいそうだ。準くんが頭を動かすとふんわりとシャンプーの香りがして、いい匂いのするオバケはありなのだろうかと一瞬頭の中によぎる。そして今更ながら、密室で2人きりだという事実を思い知らされた。

「準くん、自分ででき、」

「やかましい」

 ごにょごにょ言ったところで俺の意見が通るはずもなく、最後のボタンが嵌められて、ようやくコートを着せてもらえた。密着していた体が離れてホッとしたような惜しかったような複雑な気分だったが、くるりと俺の前まで来てコートを翻した準くんの、何とも言えない表情にそんな思いも吹き飛んだ。さっきの不機嫌はどこへやら、凄く楽しそうな悪い微笑だ。一瞬倒錯するほど綺麗だと感じたのは、彼の白い素肌に触れたいと、そんな邪な心を抱いているからかもしれない。

「さあ弘樹、予行演習だ」

 一体何の、と。そんな無粋な言葉は言わせないとばかりに準くんの唇が俺の言葉を奪い取る。ドクター気取りな服装で交わしたキスはどこかこの教室には浮いていて、こういうは結構好きかもしれないと思いながら、準くんの真っ白なコートの裾を引いた。

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