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万丈目×弘樹(十代と同室)
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 準くんの部屋は狭い。いや恐らく規模は俺と十代、その他レッド寮の生徒が使っている部屋と変わらないのだろうが、何分室内に収まっている家具の類が大きすぎる。部屋の面積に比べ明らかに比率の合っていない巨大なベッドは空間のほとんどを締めていて、ブーツを脱いだ俺は入り口を塞ぐソファを跨いでそろりそろりと移動する。お金持ちなだけあって、ベッドもソファも高級そうだ。一般人の俺にはいかにも高いですと言わんばかりのベッドに乗るのすら躊躇われる。それでも部屋の主が早くしろと急き立てるものだから、手と足を駆使してベッドへと移動した。

「フン。別に気を遣わなくていい。簡単には壊れん」

 恐ろしげに行進する様子を見た準くんが言う。そういえば前に十代がこのベッドの上で飛び跳ねていたっけ。恐らく丈夫な作りのはずだ。だからといって十代のようにしゃぐことは到底出来ないので、曖昧に笑ったまま準くんの横に座った。このベッド、やはり凄く柔らかい。

「でも、もし壊したら弁償出来ないからさ」

「十代といるせいでバカが移ったか? そんな粗雑な作りなわけがないだろう」

 相変わらず口が悪いと感じつつも、言葉とは裏腹に優しい顔を持つ彼に寝てみろと促され体を倒した。柔らかいベッドが沈み込んだが、低反発なのか何なのか、思っていた以上にしっかりと体を支えていて、かかる負担も少なそうだ。肌触りの滑らかなシーツも心地良くて、よくドラマなどで裸で眠る映像が挿入されたりするが、これならばその理由にも納得がいく。

「凄く気持ちいい……いいなぁ準くん、俺たちの二段ベッドとは全然違うよ」

「当然だ。俺様があんなお粗末なもので寝れるか。アレはベッドとは認めん」

「はは、そうかもね。じゃあ今度準くんが俺のベッド使うときは、俺がクッション材になってあげようか」

 他愛ない冗談に、準くんのいつものノリツッコミをひっそりと期待していた。しかし彼は急に押し黙ると黙って俺を見つめている。と思えばそのまま俺の方へ体を傾けてきた。ベッドについた彼の手に合わせクッションマットが沈む。何となく変な雰囲気になってしまったような気がしたので慌てて話題を変えようとしたが、口を開いた瞬間、準くんの白い手が俺の頬に触れた。ドキリとし、俺の体が硬直する。ゆっくりと近付く彼の整った顔に思わず身構えて目を瞑り、予想通り唇に触れた柔らかい感触に、今にも叫んでしまいそうな羞恥が襲い掛かった。体を強張らせている俺の顎に指が滑ると焦らすような速度で首筋に伝い落ちる。黒いシャツの上から鎖骨をなぞりながらほくそ笑む準くんが耳元にキスを落として、俺は自分の顔が赤くなっていることを自覚した。閉じていた目を開けばすぐ近くには意地悪く笑う綺麗な顔がある。

「言っておくが、誘ったのはお前だ」

「さ、誘ってないよ……」

「フン。この俺のクッション材になるんだろう? なら今から俺様の体に馴染むようにしてやる」

「それ、準くんがしたいだけじゃ、」

「うるさいぞ弘樹。大人しく喜べ」

 横暴だ、と呟いた言葉は彼の唇に飲み込まれた。柔らかくて、気持ちいい。流されたら負けだと分かっていても、求められていると感じれば感じるほど嬉しくなって、この体と心ならいつでもどうにでもしてくれという気になるのだから俺は単純である。

「まぁ、たまには弘樹の誘いに乗ってやる」

「だから俺は、誘ってなんか、ないってば……」

 準くんの手の平が腹に降りて脇腹を撫でた。熱を移されているようでぞくぞくする。軽く何度も合わされる唇を笑みに歪める彼はいかにも楽しげで、もう抵抗するのは諦めようと、肉の薄い細い首へ腕を回した。……が。

「万丈目、弘樹どこにいるか知ってるか!?」

 バン! と部屋のドアが開くけたたましい音と共に、更にけたたましい十代の声が響いた瞬間、俺は回したばかりの腕を突っぱね、準くんの胸を突き飛ばしたのだった。

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