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十代×同室(弘樹)
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 俺の横で佇む十代が考えていることが読めずにいる。彼が見下ろす大地は壮大を誇る城の最上階だけあって遥か彼方まで広がっているのが見て取れるが、それは酷く荒れ果てたものだった。彼の考えが読めない。それは当たり前だ。人と人とがどれほど強い繋がりを持とうともそれは他人で、自分以外の人間の考えなど分かるはずもない。それが強い繋がりを持った人間でないならば、なおのこと。
 強く繋がっていた十代は今はもういなくて、俺の横で瞬きすらろくにしない男こそが、その十代の体を占拠しているのである。ヨハンを助けるため共に異世界へやってきた友人は散り散りになり、その内何人かはもう顔を見ることすら出来ないかもしれない。それでも、十代はここにいた。自ら心を閉ざし、覇王などと名乗る彼が、ここに。例え今隣に立つ彼が十代は死んだと言ったところで彼は俺にとって唯一無二の存在であり、彼がここにいる以上、俺は彼の横にいることしか出来ないのだ。

「十代、もうやめよう。沢山の人が傷付いてしまう」

 覇王軍率いるモンスターと力なき村人が戦えばそこに必ず死が発生するということを俺たちは嫌というほど見てきている。いくら止めようとしたところで所詮軍を操るのは覇王であり、覇王を止めるには命懸けのデュエルで勝つしかないのだ。及び腰の俺に命懸けのデュエルなど出来はしないし、何よりそんなデュエルを、楽しむことに全力をかけていた十代とやりたくなかった。俺は彼の行いにより彼が傷付くと分かっているのに、彼を止めることが出来ない。
 ぶわりと吹き込む風は高度のせいか強く冷たく、こうして何時間も外気に晒され冷えきった手に僅かな痛みをもたらした。髪を弄ぶ風に目を細めつつ両手を口元に当て息を吹き掛ける。微量の熱が指先に触れるとじんと痺れが生まれ、そのまま指先を強く握り込んだ。

「……十代はいない」

 ぽつりと漏らした呟きは風に流され、くるりと踵を返した十代の後に続く。俺が寒がっているから彼は室内に入ったのだという自惚れは確証のないものではあるが、それでも彼が言葉少なくとも律儀に答えてくれるのが証明であると思いたい。それは俺の願望だ。
 彼の側近が俺のために用意してくれた簡素な椅子に腰を降ろして、覇王が、彼の豪奢な椅子に身を預けるのを静かに見守る。目が覚めたたら、まるで夢から覚めたように太陽と同じ眩しい笑顔が俺を見下ろしてくれる。それすら、俺の僅かばかりの願いである。

*****

 彼に一切の情などなかったはずだが、気付けば常に弘樹は横にいた。何を言うわけでもするわけでもなくそれが当然だというように、最初こそは微かな微笑を浮かべて。恐らくそれは、常の通りだったのだろう。弘樹が俺の……いや、十代の横にいることが。
 知能と、俺の手下どもから鮮やかな逃走劇を繰り広げた辺り身体能力もそれなりにあるのだろうが、デュエルをするでもなく役に立つつもりもなさそうなこの人間を俺の横に置いておく必要などありはしない。そう思っていたというのに弘樹は気付けば俺の横に並んでいた。隣に立ち、俺と同じ景色を眺めていた。弘樹が俺を十代と呼ぶ度に、十代がこの男と共に歩んだ時間を疎ましく思う。しかしそれは俺は不要の感情であり、そして弘樹にそれらを知らしめることもまた無価値である。俺が今すべきことはこの世界の統治、そしてそれへと至るための殺戮だ。だからこそ俺はこの男の顔を見ることを止めた。椅子から立ち上がり、そのやや後ろでは持ってくるよう指示した簡素な椅子に、体を預けて眠る弘樹の姿がある。両手を握り締め細い首と肩を晒す少年は、寒いのか寝苦しそうだ。
 彼は俺のあとをついてくる。前にそうして連れ立った村で人を切り捨てたとき、まだ幼さの残る彼の顔は青ざめ引きつっていた。俺はその顔を忘れないだろう。思い出すと何故か胸に何かがつかえたようなもどかしい感覚が甦り、それを振り払おうと弘樹の頭に手を伸ばした。その手をどうすべきか迷った末、額にかかる前髪を指で払いのけ、そっと顔を覗く。唇に微かな笑みを乗せる彼の表情は穏やかであり、しかしそれは俺ではない人間の存在によるものであると、そう考えて俺は手を離した。

「……十代はいない。いるのは俺だ」

 鎧の後ろに付けられたお飾りの布切れを外し弘樹の体にかける。睡眠をほとんど取っていなかった彼はしばらく目を覚まさないだろう。せめて俺がいない間くらいは、彼の望む眩い光が差し込み暖かく照らしてくれることを願う。それを弘樹から奪ったのは、他でもない俺だった。

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