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十代×同室(弘樹)
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 試験の成績が悪すぎて追試ってことはよくあるが、それにしたって今日は最悪だ。帰ったら三沢から借りた王国編のDVDを弘樹と一緒に見ようと思ったのに、時計はもう6時を指している。雨音の聞こえはじめる窓を見やったら空は薄暗くて、勉強を教えて貰っても赤点を取ったり、教室の外で2時間近く待たせたりと、さすがに弘樹に申し訳ないなと自分でも思った。一応雨が降り始めてから先に帰るようPDAにメールしたものの、彼は多分帰っていないだろう。前も朝から夕方まで追試に付き合ってくれたし。
 返信がないままPDAを指先で弄りながら見つめるテスト用紙はまさに立ちはだかる強敵だ。ああ、早く帰って弘樹とデュエルしたい。っていうか抱き締めたい。あとキスもしたいしそれ以上も……現実逃避は更に進むばかりで、一向に終わりの見えない問題にため息をついた。

 俺がテスト用紙をクロノス先生に提出したときにはもう辺りは真っ暗だった。PDAには「分かった」という返信があったので、いくら弘樹でも雨の中待つ気にはなれず先に寮へ戻ったのかもしれない。それならそれで構わないし、とにかく7時からの夕飯にもギリギリ間に合いそうだったので、俺は急いで校舎を飛び出した。水たまりを飛び越えながら校門を出ようとしたとき、佇む人影に気付いて足を止める。

「……あ、十代!」

 赤い傘がくるりと一回転して、暗がりの中僅かに弘樹の顔が見えた。あれ、帰ったんじゃないのかよと聞こうと思ったら、走り寄ってきた弘樹はぼんやりと立ってる俺の頭上に傘を掲げてきた。冷たい雨が遮られ、俺と弘樹の目が合う。

「十代、傘持ってないだろ? ほら、帰ろう」

 にこりと微笑む弘樹は優しいなと実感した。きっと傘を取りに戻ったのだろう。いつまでたっても赤点ばっかりの俺なんか放っておいて寮にいればよかったのに、結局今日も時間を無駄にしている。でも弘樹は気にしてないみたいで、むしろ俺が追試を終えたことに安心したみたいに俺の頭を撫でてきて、俺は何だか何とも言えない気持ちになって恋人の体を抱き締めた。

「わ、十代……?」

 どうかしたか? 驚いたのか傘の落ちる音と共に宥めるような声が耳に触れてドクリと心臓が鳴る。雨と混ざった弘樹の甘い匂いを吸い込むとその心臓も少し落ち着いた。腕を回した背中はとても細くて頼りないのに、この体はいつでも俺のためだけに動いてくれる。

「その……さ。さんきゅ」

 何て言えば分からないままとりあえず一番この感情に近い言葉を呟くと彼は笑った。雨が染み込み始めた俺の背中と頭をよしよしと撫でて、変にドキドキしてしまっている俺の気なんて知らずに柔らかい頬をすり寄せてくる。弘樹の匂いは大好きだ。沢山吸い込むと頭が痺れるようにぼうっとして、雨の日は特にそれが強くなって、何だか無性にキスしたくなる。あれ、これはいつもか? 誰かに言ったらフェロモンにやられているんだなと笑われたけど誰が言ったかは思い出せなくて、俺は腕の中で大人しくしている弘樹の唇に口付けた。 拒否もせず俺の頭を撫で続けるパートナーは雨に濡れて寒そうだったが、肌の触れている場所は熱を持っていた。舌を絡めて体をより密着させると弘樹の体がびくりと固まる。きっと俺が勃ってることに気付いたんだろう。

「……なぁ、俺、弘樹のこと、愛してる」

 キスの合間に呟く言葉は細切れだけど、彼の顔はしっかり赤い。辺りが暗いのをいいことに俺は弘樹の体を校舎の壁に押し付けて、それからぺろりと舌なめずりをした。息を荒げとろんととろけた瞳が俺を見上げて服の裾を掴む。濡れて肌に張り付くシャツの中はぬるく温かくて、それがまた俺の頭を痺れさせた。弘樹の香りが俺の頭と体を突き動かして、この幸福感があるなら風邪引いてもいいかもしれないな、なんて考えてしまう。しかし言葉は飲み込んで、俺は代わりに、弘樹の唇に再び吸い付いた。

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