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ココの飼い犬
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 ココが仕事しているとき大抵俺は暇で、そういうときに限って色んなことを考えてしまう。トリコとかココとかサニーとかゼブラとかは確かにグルメ細胞の強化率がハンパない。でも俺は彼らと違って、ごくありきたりな強さしかない。だとすれば一体俺は何のために作られたんだろう、とか。何の役にも立っていないのにココと一緒にいていいんだろうか、とか。俺は頭が悪いからいくら考えても答えは出なかったし、ひょっとして考える意味もないんじゃないか、なんておもったりもする。でも狭い部屋で無音の中に佇んでいると、無性にそんなことを考えてしまう。自分でもバカだと思うし、考えなきゃいいとも思う。でもバカだからまたそれに行き着いてしまうのだ。せめてココの半分くらいでいいから、俺の頭がもう少し回転すればいいのにな、といつも思った。
 テレビを見ててもいいよとココが言ってくれるけど、難しい話はもちろん意味がわからないし、そもそも人の話に興味がないから楽しいとも思わない。俺の世界はあの監獄を出る前も、そして出たあとも、いつも目の届く程度の、身の周りの小さな世界だけだった。トリコも、ココも、サニーも、ゼブラも、リンも、所長も、みんな「ライトはそれでいい」と笑ってくれた。

「おや、考え中かな」

 テーブルに突っ伏してまたぼんやり色んなことを考えているときだった。知らないうちに開いていたドアからココが覗いている。声に反応して咄嗟に顔を上げた俺を見てにっこり笑いながら近寄ってきたから、頭の中から一気に色んなことが吹き飛んだ。

「ココ! 終わり? 仕事終わる時間?」

「うん、今日は早めに帰ろうと思ってるからね」

 吸い寄せられるように立ち上がった俺はココのそばに駆け寄りながらそう聞き返す。今日は早く終わる。言われて時計を見たらいつもより30分も早い店仕舞いだ。そこそこ身長の高い俺よりもっとデカいココの体に引っ付いて、構ってもらおうと首元に頭を擦り付ける。くすくすとわざとらしく笑ったココは、それに気付いて頭を撫でてくれる。

「今日はいつもより甘えん坊だな。何かあったかい?」

「ううん。なんでもない」

「そうか。何もないのにべったりするなんて、今日のライトはサービスがいいね」

 頭を撫でていた手が俺の耳をくすぐる。バトルウルフの血を引く俺の耳は人間のそれよりも敏感だからこそばゆかったけど、何より甘えさせてくれるのが嬉しかったので、いつもみたいに頭を振っての抵抗はしなかった。 俺の様子がおかしいなんてこととっくに気付いているココは後ろ手にドアを閉めて、よしよしなんて言葉をかけながら俺の肩とか背中とか腰とかを撫でる。あったかくて気持ちいい。バトルウルフは孤高の生き物だから幼少期以外のコミュニケーションはしなかったみたいだけど、俺はこうやってべたべたするのが好きだ。やっぱりバトルウルフとは違うんだなと思うと、また無性に寂しくなった。

「さて……この甘えん坊のワンちゃんは、どうすればご機嫌がよくなるのかな?」

 ご先祖様のような高いプライドを持たない俺はそんな優しい声に尻尾を振って応答する。本当にバカ。でも相手にしてもらうの、嬉しい。ココの背中に手を回して顔を上げ、キスをせがむ。キスしてもらうと頭の中が真っ白になって色んなことがわからなくなる。俺の元々狭い世界が今度は目の前のココだけになって、難しいことを考えられなくなる。それは凄く幸せな時間だった。

「……キスがほしい? それとも、その先まで?」

「全部ほしい。ココのこと大好き」

「ありがとう。ボクもライトが大好きだよ」

 頭の悪い俺に言い聞かせるみたいにココはゆっくり呟いて、口を開いて待つ俺の額にキスをした。目蓋、鼻先、頬に落とされて、そのあとようやく唇に触れる。膝ががくがく震えるまで続くキスはいつもと同じ色んなことを忘れさせてくれる優しいもので、俺は鼻にかかったような甘えた声で、ココの名前をただ呼んでいた。

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