十代×同室(弘樹)
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「それは嫉妬だろう」
授業が終わって寮に戻ろうとした万丈目は答えるのも面倒と言わんばかりの顔で、それでもひとしきり俺の話を聞いたあとそう言った。俺に握られた腕を鬱陶しそうな顔で振り払り払い、未だ教室で質問責めにあっている弘樹を顎で示す。
「ああして大人数に囲まれてる姿もむしゃくしゃするんだろう」
「おう」
「嫉妬だ」
もう一度同じやり取りを繰り返しさっさと去ろうとした万丈目の、今度は肩を掴む。さっきよりも強く掴んだら万丈目は思いっきり嫌そうに眉間に皺を寄せて俺を睨んだ。万丈目も弘樹のことを気に入っている。だからこいつの目にも、俺と同じような光がチラついていた。
「なぁ万丈目、俺、どうすればいいと思う?」
「さんだ。俺が知るか」
「弘樹が俺以外のヤツといると嫌なんだ。だってそうだろ? 俺は弘樹が好きで、弘樹は俺が好きなんだぜ?」
「だから俺に言うな」
「どうすればいいんだ、どうしたらこの……何かもやもやしたこの感じを無くせるんだよ、万丈目」
さんだ、と間髪入れずに返す万丈目が自分の額に手をやってため息をついた。惚気は他でやれ、と呟いたけど、結局面倒見のいいこいつは嫌そうながら考えるように目を伏せる。そしてまた弘樹を見た。カードの効果とかテクニックとか分からない問題とか、とにかく弘樹に構いたいがために色んな質問を持ち出すクラスメイトに嫌な顔もせず弘樹は答えている。彼もまたチラチラとこっちを窺っているようだ。視線が合ったのでにーっと笑うと弘樹は嬉しそうに頬を緩めて、それから隣に陣取っている女子の声に急かされカードに目をやる。腹の中がぐるりと熱くなって、弘樹の横に座る女を睨むように見据えていると、今度は万丈目に腕を小突かれた。
「あからさまに顔に出過ぎだ」
「……だってさぁ」
「お前の物にしちまえばいいだろ」
は? と首を傾げると、万丈目は両腕を偉そうな仕草で胸の前に組む。
「だから、余計な虫が付かないように、貴様の痕でも残せばいいだろう、ということだ」
「犯せってことか?」
「なっ、そうは言ってない!!」
「ふーん。アト、か……」
「聞いてるのか貴様!!」
いいかもしれない。万丈目の言葉に思い浮かべたのは裸に剥かれた弘樹の姿で、俺はいつまでも弘樹の周りから消えない取り巻きを眺めた。誰にでも笑顔を浮かべる弘樹が俺にしか見せない顔だなんて、考えただけで興奮する。アトをつけて俺の物にしてしまえば、この胸のもやもやも少しは治まるかもしれない。
「うん、それいい。サンキュー万丈目!」
「おい貴様、弘樹を傷付けるようなことを、」
「しないって。じゃあな!」
去り際に見た万丈目は嫉妬とも心配とも不安とも取れない表情をしていて、俺はへらっと笑って手を上げる。ついでに弘樹を大声で呼ぶと彼はパッと顔を上げて、それから周りに早口で何か言ったあとこっちに走り寄ってきた。 自分のデッキをホルダーにしまいながら俺の後ろを歩く弘樹が服の裾を引く。顔を向けると綺麗で優しい微笑が俺を見つめていてドキリとした。弘樹が誰かといるときに感じたもやもやは今はなくて、代わりに今すぐにでも抱き締めて困らせたい気持ちでいっぱいになる。
「十代、あのさ……準くんと何、話してたんだ?」
「え?」
「いや、十代時々怖い顔してたからさ、何かなって……」
慌てて付け加える姿が可愛くて俺は少しおかしかった。万丈目にも言われたけど、俺はそんなにも顔に出るんだろうか。弘樹の腕をきつく掴むとその指が一瞬ぴくりと弾む。痛いくらいに握れば、きっとここにもアトが付くはず。
「弘樹のこと話してたんだよ」
笑いながら答えたら弘樹も微笑して「そっか」なんて言った。内心ではどうやって弘樹の体の奥深くに俺のアトを残そうか考えてたけど、これから自分が俺に犯されるなんて気付きもせずに、恋人は優しく愛しい笑顔を俺に向けるのだった。
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