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十代×同室(弘樹)
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「お願いしますクロノス先生!! 俺を遊城十代くんと同室にしてください!! 何でもします、成績だってもっと上を目指します、だから……だから、十代くんを俺に下さい!!!」


 開いた口が塞がらない、なんて言葉を初めて理解した瞬間だった。デュエルアカデミアの編入試験に余裕で満点合格し成績を評価されてのラー・イエローに行くはずだったこの木暮弘樹という男は、俺と一緒にいたいがため、多くの生徒が見守る中、クロノス先生の前で頭を下げながら盛大にそう告白していた。先生も弘樹の尋常ではない押しに負け、ヤツは俺の成績を上げることを条件に、見事オシリス・レッド、そして俺との同室という私欲を通したのだった。

 今考えても凄い。だが弘樹の偉業はこれだけに留まらず、アカデミア内の同性愛という偏見を吹き飛ばし、常に成績は上位をキープ、そしてダメ押しとばかりに生徒も先生も味方につけ、ついでに俺への愛も溢れさせていた。

「じゅーうだーい!! よかった追い付いて! 課外授業、一緒に行こうよ!」

 成績優秀で運動神経も抜群、しかも顔も綺麗で性格だって優しい弘樹の周りには常に人が集まる。人だかりの中心にいる弘樹に声を掛けるのも億劫だったため教室に置いてきたっていうのに、こいつは何でこうも追い付くのが早いのかり

「おう、いいぜ。あ、そうだ、さっき明日香からバトルシティのDVD借りたんだけどさ、帰ったら見ようぜ!」

「ホントに!? 嬉しいな、十代が誘ってくれるなんて……明日香さんに感謝だね!」

「大げさだなー、弘樹は」

 明日香や翔なら「また見るの?」とか「よく飽きないね」とか言ってくるけど、弘樹は嬉しそうに笑って一緒に見てくれる。毎回同じ場面で驚くし、同じ場面でテンションが上がる。編入当初はあの告白もあって流石にぎこちなかったが、今ではもう、俺もそんな弘樹が大好きだった。

「十代、明日の授業出る?」

「うーん、どうすっかなぁ……明日って変な授業あった気が……」

「うん、クロノス先生の筆記授業があるね」

「うげっ! じゃあパス!」

「はは、言うと思った! 俺は出るから、帰ったら教えてあげるね!」

「やりぃ! 弘樹の授業だったら大歓迎だ!」

 現金な態度にも弘樹は「クロノス先生に怒られるぞ」と笑っている。クロノス先生の授業は嫌いだけど、その内容を教えてくれる、弘樹の丁寧な個人授業は大好きだ。嬉しくて俺も同じになって笑うと、弘樹がふんわり綺麗に微笑んだ。まるで童話に出るお姫様みたいな笑顔に、俺の胸がドキリとする。今日のDVDも楽しみで、明日の授業も楽しみになった。きっと弘樹と一緒に過ごす時間は、これからもずっと楽しみに感じるんだと思うと、俺はそれだけでまた胸がドキドキするのだった。



 バトルシティのDVDはいつ見ても面白い。人の命が掛かった戦いだと思うと息が苦しくなるけど、それでも大切な人たちを守ろうと戦う決闘王の姿は最高にかっこよくて、俺が思い描くヒーローそのものだった。

「本当に凄いよね……俺はこんな緊張感、堪えられないかも」

 ポツリと弘樹が呟く。小さな声で「俺も」と返すと、弘樹はクスリと笑った。テレビを前に座り込む俺たちの間では俺の右手と弘樹の左手が重なっている。いつから手を繋いで見るようになったんだっけ、と考えていたら、俺の手の下にある細い指がぴくんと揺れた。横目に窺うと弘樹は何度も瞬きを繰り返していて、俺の視線にも気付かない。真面目な彼はいつも消灯時間ギリギリまで勉強しているから眠いのかもしれない。
 すべすべする手をそっと撫でてみたら段々と弘樹の頭が揺れて、しばらくするとコトリと頭が俺の肩に乗った。 DVDは進んでいて、俺は肩に多少の重みを感じながら画面を見つめている。召喚されたモンスターは決闘王の罠カードにやられて……あれ、何の罠を発動させたんだっけ?
 俺の意識は完全に弘樹に向いていて、大好きなDVDさえ頭に入らないくらいだった。チラチラと相手の顔を見ると彼は寝息を立てていて、何だか猛烈にドキドキしてる自分が恥ずかしい。

「……弘樹って睫毛なげーなぁ……色も白いし」

 顔を覗き込むと、普段あまり気付かないところに目がいく。白い肌、長い睫毛、柔らかそうな唇……どれを取っても人形みたいな綺麗さだ。吸い寄せられるように顔を近付けるとそれが間近に目に入る。そういや弘樹が起きてるときにキスしたことってない。恥ずかしくていつも寝てるときを狙うけど、よく考えたらそれってかなり陰湿だ。
 音も立たないくらいにそっと唇を重ねる。僅かな弾力を返すそれは俺と違ってしっとりしていて、それがまた恥ずかしかった。 ……何してるんだ俺は。寝てるときにキスしては毎回思うことをまた考えて急いで顔を離した弘樹の髪からはシャンプーのいい匂いがしてカッと顔が熱くなる。唇にはまだふにっとした感触が残っていて、あまりの恥ずかしさに外へ飛び出したい気分だ。
 重なる手をぎゅっと握ると弘樹が少しだけ身じろいで、でもまたすぐに体の力を抜いた。
 DVDの映像はもう後半だ。さっぱり見てなかったから、明日にでもまた見直そう。弘樹のさらさらする髪をちょっとだけ撫でてから、俺はそう頷いた。

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