He became a woman.58.
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 ソーガ、と名前を呼ばれて目を開くと、目の前にはくたびれた顔をした髪の長い男の人がいた。一瞬朝かなと思ったけれど窓の外、カーテンの隙間に見える空は未だ暗い。壁掛け時計に目をやれば、それは朝と言うには早く夜中と言うには行き過ぎる位置に短針が止まっていた。随分遅い帰りだ。ほとんど朝帰りみたいな時刻に驚きつつも軽く目元を擦り「おはよう消太くん……」と声をかけると、僕を起こした張本人は「朝じゃねえよ」と小さな声で答えてくれた。
 今夜は飲み会で遅くなるから先に寝ていろと連絡が来たのはお昼を過ぎた頃だった。お言葉に甘えて先に床についた僕は、てっきり消太くんと顔を合わせるのは翌日だろうと思っていたのだが、どうやら僕のことが大好きな消太くんは朝まで待ちきれなかったみたいである。腹の上に乗り体を屈め、顔の隣に肘をついた消太くんの顔はちっとも赤くなっていないけれど、顔に出ないだけでそれなりに酔っ払う彼は、きっと今、酔いが回っているのだろうなと思う。「ソーガ」優しい声がもう一度僕を呼ぶ。手が頭を撫でてくれて、それから唇が降ってきた。開いた唇の中から差し込まれる舌はアルコールの味がする。何杯飲んだのだろう。寝起きでうまく働かない頭を何とか活動させながら懸命に彼の舌を吸い、ヌルヌルした唾液を舐めて、伝い落ちてくる分は飲み下した。消太くんの首の後ろに両腕を回して背中を撫でてみる。そこはしっとりと汗ばんで、いつもより高い体温を感じさせる。フッと微かに笑う気配がしたかと思うと顔が離れ、僕の唇がペロリと舐められた。

「ソーガ、エッチなことしようか」

 唐突だな、とぼんやり思う。

「でも消太くん、お酒入ると立ちが悪いって言ってなかった?」

「立つよ。お前が可愛いからね」

「あはは、ありがとう。でも明日じゃダメかな? 僕眠いよ、消太くん……」

 薄暗い部屋で、ムッと恋人の顔がむくれるのがわかった。僕の首筋にキスをする消太くんの手がシャツの中へと潜り込み素肌を撫でていく。酔った消太くんは何かと触りたがるし、それは僕としても嬉しいのだけど、いざ行為に移るとやっぱりアルコールのせいで立ちが悪くて、そのうち眠ってしまうことも少なくないから、あんまり気が乗らないのは事実なのだ。肌を撫でる大きな手の平は湿っている。胸元まで滑る親指に乳首を捏ねられて思わず肩が弾んだ。口だけでしか抵抗しない僕の体は簡単に熱を持ち更なる刺激を期待した乳首がムクッと大きくなる感覚があった。

「気持ちいいか?」

 問われて頷く。シャツがめくられ露わになった胸ではいつもより存在を主張する乳首がある。消太くんの両手がそこに這わされ親指と人差し指がグニグニと形を変えるほどに揉んでくる。ジワリとした気持ちよさがゾクゾクした刺激に姿を変え、腰にまでそれが伝わっていく。ほんのちょっと乳首を弄られただけなのにエッチの準備をはじめてしまう僕の体は持ち主の言うことなんて聞かなくて、僕に跨り、微かな笑みを浮かべる消太くんの思うがままにされてしまった。乳首を弾いた指が離れ、彼自身の下腹部にその手が伸びる。服の上から弱く握ってみせたそこは通常時のそれよりも膨らんでいるのか確かな質量を感じさせた。

「言ったろ、立つって」

 また消太くんが笑う。「ソーガ、しよう」気怠げで甘い声で囁かれ僕の頭までぼんやりしているような気がした。今からエッチをしたらきっと朝になってしまうだろうけど、消太くんの求める声には抗えず、僕は諦めて自分の胸に手を添えて「ショータくん……舐めて……」とおねだりをした。

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170911