He became a woman.53.
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日曜日の昼下がり、目を覚ました僕は寝ぼけ眼を擦りながら寝返りを打ち、隣にあるはずの消太くんの体がないことに気がついた。ダブルベッドの掛け布団はめくれ、さっきまでそこに人が寝ていた痕跡だけがある。朝に弱い恋人が僕よりも早く起きるのは珍しく、トイレだろうかと考えながら重い体を持ち上げベッドボードに寄りかかると、丁度視界の先にある寝室のドアが開いた。いつもよりボサボサで凄いことになっている髪を乱雑にかきながら現れた消太くんの片手にはミネラルウォーターの入った飲みかけのペットボトルがぶら下がっていて、きっと喉が渇いて目が覚めたのだろうと推測する。僕を視認した気だるげな恋人は「お」と声をあげた。
「おはよう、消太くん。今朝は早いね」
「ああ……喉渇いて目ェ覚めた」
やっぱり思った通りだ。鍛えられた上半身を惜しみなく晒し、下半身はといえば使い古されてウエストのゴムが伸びたスウェットを申し訳程度に腰に引っかけただけのラフな格好で、消太くんがクアッとあくびをする。昨夜のセックスのあと、とりあえず手近な位置に落ちていたズボンを身につけただけなのだろう。下着をつけているかは怪しいけれど、平気な顔をして全裸で部屋を往来する彼にすれば、この姿はきちんと服を着ていると言っても過言ではない。きちんと服を着ている消太くんは後ろ手にドアを閉め、僕のいるベッドへ近寄った。筋肉の隆起した上半身と生えっぱなしのヒゲが彼の気だるげな雰囲気と絶妙にマッチし、今朝の消太くんもまたワイルドでカッコよかった。こんなに素敵な人とお付き合いをして、しかも可愛いだとかエロいだとか言われながら抱いてもらってるだなんて、僕は幸運な幸せ者だ。キュッと胸が締め付けられるのを感じる。やっぱり僕は、消太くんのことが大好きだった。
一応衣類を纏う彼と違い完全に全裸の僕は対照的に筋肉のない貧相な体だったので、それを隠すように掛け布団を腹の辺りまで手繰り寄せた。見られて恥ずかしい、だなんて女の子みたいなことを言うつもりはないけれど、それでも体脂肪率に差がある消太くんが隣に並ぶと自分の貧弱さには嫌気が差すので進んで見せる気にはなれなかった。寝起きの体は少ない筋肉が一人前に凝り固まっていて、それを解すため腕と背中をうんと伸ばす。日常生活であまり使うことのない背中の筋肉が伸びると気持ちよくて思わず「うー」と唸り声をあげると、人の悪いニヤニヤ笑いを浮かべた消太くんが、無防備になった僕の脇腹をチョンとつついた。「うひゃあ!」即座に僕の悲鳴があがる。脇腹はくすぐったいからやめてといつも言っているのに、彼は時々こうして思い出したようにくすぐってくるのだ。意地悪な恋人はクツクツと喉を鳴らして笑っている。ひどい人だ。
「もー、くすぐるのはダメだよ!」
「はいはい」
全然僕の話を聞いてない返事だった。依然としてニヤけたままの消太くんが自分の寝ていた場所に腰をかけて、ベッドボードに枕を置いたあとそこに背中を預ける。僕も枕の位置を少しずらし、消太くんの方へ距離を詰めた。広いベッドの上でぴったりと体を密着させると体温が心地よくて、消太くんを見上げ、なんだかよくわからないままつられてニヤけてしまう。うへへと笑えば消太くんが僕の頭に額を押し当てグリグリと擦り寄ってきた。猫みたいだ。筋肉をまとった太い腕が僕の肩を抱いてくれて、僕も何か応えたくて消太くんの太ももに手を置いてみる。するとすぐに消太くんの手がそれに重なりギュッと握り締めてきた。胸がキュンとする。顔を寄せ頬擦りしながら「ソーガ」と僕を呼ぶ彼はキスがしたいみたいで、僕の口元に自分の頬を押し付けるようにねだっている。甘えん坊な僕の可愛い消太くんはこういうとき素直におねだり出来ないが、慣れればやっぱりそれも可愛かった。促され、ちょっぴり厚い唇に自分の唇を押し当てる。消太くんの唇は僕より少し肉厚で、温かくて柔らかくて気持ちよかった。
「消太くん、ちゃんと眠れた?」
「寝たよ。爪牙は……寝てたな、さっきまで」
「うん。あったかくて気持ちよかったから、寝すぎちゃった」
「寝ぼすけだな」
「あはは、寝ぼすけだあ」
「……ソーガは可愛いね」
「ありがとう。消太くんは今日もカッコいいよ」
「そりゃどーも」
中身のない、他愛ない会話を交わす。昨夜の消太くんは僕の体を押し倒して狼みたいな鋭い目付きで僕を凝視し、痛いくらいの力で押さえつけていたというのに、今は普段と同じ気だるげで穏やかな顔と声をしている。どっちの消太くんも大好きだったけれど、でもやっぱり僕は今の消太くんが可愛くて仕方なくて、デレデレに甘やかしたくなってしまうのだ。マジマジと彼の顔を見つめていると消太くんの黒目がこっちを向いて、重なった手に力がこもり、更にギュウッと締めつける。「どうしたの?」と問うと、可愛い消太くんは「別に、何でもねえ」なんて素っ気なく切り返し、もっと甘やかせと言わんばかりに何度も頬擦りを繰り返すのだった。
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170404
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