He became a woman.48.
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消太くんは僕の食べているものや飲んでいるものを一口欲しがることがある。帰る途中に立ち寄ったコンビニで購入した菓子パンをかじっていると、ソファに座っていた消太くんはやっぱり「メロンパン? 一口くれ」と言ってきた。もちろん僕は構わないので手に持っていたパンを彼の前に差し出すと、年上の恋人は僕がかじりついた辺りをパクリと口に含み食いちぎる。彼は体が大きいためか一口が大きくて、豪快に食べるものだから見ていてちょっぴり面白い。菓子パンを咀嚼する彼のヒゲには、パン生地の中にたっぷり詰まったメロンクリームがくっついていた。子供みたいで可愛いなあと思いつつ「消太くん、ヒゲについてるよ」と教えてあげると、彼は何も言わずに少し顔を突き出してくる。取れ、ということなのだろう。甘えん坊の恋人が織りなすワガママに振り回されつつ、唇の横に付着する薄い緑色のクリームの辺りに口を押しつけた。クリームを舐めると甘くて、チクチクしたヒゲの感触が舌を刺激する。チュッと音を立てて吸いつくと、消太くんがニタリと、ほんの少し人相の悪い顔で「爪牙は可愛いね」と笑った。
「消太くん、ヒゲチクチクだあ」
「嫌か?」
「ううん。好きだよ」
「そりゃ良かった。おいで」
良いとも悪いと思って思っていなさそうな口振りで消太くんが僕の腕を引く。ソファに腰掛ける彼の膝に強引に乗せられた僕は座面に膝をついて体重を支えているのに、恋人の逞しい腕はグイグイと腰を引き寄せてくる。そのせいでペタリと彼の上に座り込んでしまったが、本人は重さなど感じていないかのような涼しい顔だ。「重くない?」と聞くと「重くない」とおうむ返しが返ってきた。
「ソーガ、キスしよう」
「えー、僕まだ食べてるのに」
「あとで食べりゃいいだろ」
「……エッチなことしたくならない?」
「お前がエッチな声を出さなけりゃね」
「あはは、出さないよ」
「どうかな」
そう言った消太くんが僕の頭を撫でて顔を寄せたので、僕は再び彼にキスをした。クリームを舐め取るさっきのキスとは違い、今度は甘えん坊な消太くんを満足させるための大人のキスだ。唇を押し当て舌を差し込んで、クリームの味がする甘い口の中をゆっくり味わう。柔らかくて温かい舌同士を擦り合わせるのが気持ちいい。伸ばされた大きな舌をしゃぶるとジュルルッといやらしい音が鳴ってしまって、その音がこのキスをいやらしいものだと認識させるみたいで恥ずかしかった。気持ちよくって幸せで、背徳的な感覚を味わえば味わうほど僕は夢中になってそれを吸った。思わず力がこもり、手に持ったパンの包みがクシャッと鳴る。押し出されたクリームが僕の指を淡い緑色に染めていく。
「あ……しょーたくん、クリーム落ちちゃうよ……」
服についたら染みになってしまう。慌てて制止する僕の声に、消太くんは顔を傾け溢れ出すクリームを舐めた。溢れないよう彼の舌がクリームをすくい、僕の口の中へとそれを運んでくる。舌が絡まり、唾液と溶けた甘いクリームが彼の口腔へ流れ込む。ちゅば、ちゅぽ、いやらしい音を響かせながらおしゃぶりされてしまうと、キスをしているのか食べられているのか、もうわからなくなってしまった。消太くんの手が菓子パンを取り上げて、僕は両腕を彼の首の後ろに回す。エッチなことなんてするつもりなかったのに。「んっふあ……」期待したみたいな声が出てしまった。これじゃあ消太くんの思うツボだ。
「そらみろ。エロい声出てる」
「だって、これ、ショータくんが……」
「ソーガがエッチな声出すせいで立っちまった」
「そんなあ……僕のせいじゃないのに……」
「お前のせいだよ。ほれ、言うことあるだろ」
「うー……エッチな声出して、ごめんなさい……」
「本当にな。まったく、お前のせいでエッチなことしたくなったじゃねえか」
絶対僕のせいじゃないのに。ひどい言いがかりだと思うのに、それなのに、僕は言い返すことが出来なくなってしまった。胸がドキドキして、頭がクラクラして、体中にジワッと熱が浸透していくみたいだった。熱くなった下腹部をすり寄せながら「エッチな声出して、ショータくんを誘惑してごめんなさい……」なんて、言えと言われたわけでもないのに何故か僕の口は謝ってしまう。意地悪で優しい僕の恋人は据わった瞳のまま唇だけをつりあげて「分かってるなら話は早いな」と、僕のお尻を撫で回して囁いた。
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170318
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