He became a woman.47.
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ドライアイの消太くんの目薬を買うため立ち寄った薬局で、僕の少しあとをついて歩く恋人突然「あ」と声をあげた。キッチンペーパーも予備が切れていたし、物はついでだ、それも買っておこうと目的のスペースを探す僕は声につられて振り返る。「どうかした?」と問うと、消太くんはいつもの無表情で「ゴムねえ」なんて端的に呟いた。ゴム? 一瞬何のことかと考えたものの、男同士で話題にあがるゴムといえば一つしかない。きっとコンドームのことだろうと思い至る。そういえば先週、セックスのあとに彼がポツリとそんなことを呟いていたような気がする。使うのはもっぱら消太くんばかりで、僕は恥ずかしいプレイに用いられるとき以外は滅多に使わない。他の消耗品に比べ消費量を把握していないのですっかり忘れていたけれど、前回は12個入りを、それも二箱も買ったはずだった。24回分がなくなるほどセックスしているのだなあと思うと嬉しい反面照れてしまう。とはいえいざ使うタイミングで予備がないのは困ってしまうだろうし、在庫がないならコンドームも買い足した方がよさそうだ。
男2人で衛生用品の棚の前に並ぶのは若干の羞恥心があったが消太くんは羞恥などまるで抱いてなさそうで、気だるげな足取りで先を歩きはじめている。僕も置いていかれないよう小走りになり、心持ち辺りをキョロキョロ見回ながら彼に続いた。
「使ってみたいのあるか?」
棚の前で消太くんが僕に聞く。人影まばらな店内とはいえ、今この場所でそれを僕に聞いちゃうの? 裏側に人がいないのを内心で祈る僕は「……どれでもいい?」と聞き返した。無駄に好奇心が強いせいかこうして商品を前にしてしまうとどうにも真剣に選びたくなってしまって、年上の恋人が見守る中、気になったパッケージに手を伸ばす。0.01ミリと大きなゴシック体で記された箱は色鮮やかなパステルイエローで、手の平サイズのそれを僕の手からかすめ取った消太くんが、からかいを含んだ声音で「へえ」と呟いた。
「一番薄いやつか」
「う、うん、気になっちゃって……ダメ?」
コンドーム越しに挿入した体験はないのでそちら側の感覚は未経験だけれども、入れてもらう側としてはゴム越しのチンコというのはのっぺりしていて味気なくて、どうせだったら薄い方がいいのかなあと思うこともある。薄さを求めたコンドームによる挿入感が果たして生の感触とどの程度違うのか、早い話が入れ心地を試してみたくて消太くんに承諾の如何を問うと、彼はニヤニヤ笑いを浮かべながら「爪牙はエロいな」なんてからかった。顔がカッと熱くなる。消太くんだって気になるくせに。僕の恋人は意地悪だ。ニットの袖口を引いて、僕は少し高い位置にある消太くんの耳に顔を寄せた。ほんのちょっとだけ仕返しをしようと目論みつつ「でも今日は、これなしでエッチしようね」と囁いてみる。せっかく買ったものを使わないのはもったいないけれど、恋人の熱を体内に感じながら触れ合うのは抗いようのない心地よさがあるから、それを考えるとやっぱり僕はゴム越しではなく、消太くんの素肌を直に感じたかった。一瞬だけ目を瞬かせた僕の恋人が視線を逸らしたかと思うと、彼は「最初からそのつもりだ」なんて言うものだから、仕返しするつもりが、結局また僕が顔を赤くしてしまうのだった。
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170316
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