He became a woman.45.
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僕の恋人は合理主義者で、二度手間だとか時間の浪費だとか、そういったものをとにかく嫌う。時間短縮を求めて食事を携帯食で済ませるくらい徹底した合理主義なのだけれども、そんな彼に対しただ1つ僕が不合理だなあと感じるのは、伸び切った長い髪の毛の存在だ。定期的に散髪に行くのが面倒という理由で数年間放置するなんてザラのようで、彼とお付き合いしてから髪の長さが短くなったことはたったの一度もなかった。出会った頃は肩よりちょっと上だった彼の毛先は、今はもう10センチ以上も伸びている。頭だけを出し布団に包まる消太くんが一瞬女の子に見えて驚いたことも一度や二度じゃない。ソファに横たわり、僕の膝に頭を乗せてテレビを眺める恋人の髪に指を差し込み梳いてみた。柔らかいけどサラサラというわけではなく、くしゃくしゃの黒髪は指通りが悪くて絡みつく。毎日洗うのが大変そうなのに、どうして伸ばしているのだろう。短くした方が楽なのになあと、髪を伸ばしたことのない僕は疑問に思った。
「引っ張ったら痛えよ」
絡んだ髪が指につられてピンと張り、消太くんが不満を漏らした。「あ、ごめんね」謝り僕は髪を解いていく。消太くんのゴツゴツした温かい手が僕の手に重なって、頭から引き剥がすと頬の上へと移動させられる。どうやらもう頭は撫でさせてもらえないみたいだ。ちょっとだけ残念ではあるけれど、代わりに今度は彼の、肉の薄い頬を撫でてみる。こっちはこっちでヒゲがあるのでチクチクしている。痛いようなくすぐったいような絶妙な感触を指先に感じながら親指でそこをなぞると、消太くんの気だるげな眼差しが横目にこちらを見た。何か言いたそうな表情だけれど何も言わず、僕のしたいようにさせている。顔にかかる長い前髪を耳にかけると、日に焼けていない白い横顔を覗くことが出来た。思わずムフフと含み笑いを浮かべる僕を見て、消太くんの眉がピクリと動く。
「なに笑ってんだよ」
「ううん。何でもない」
「何でもないのに笑ってんのか」
「そうだよ。笑っちゃうくらい幸せだなあって」
「なんだそりゃ」
言ってる意味が分からない、っていう顔だ。人差し指でほっぺたをツンツンつつくと消太くんの手に力がこもり、甘えるみたいに頬にこすりつけてくる。僕の年上の恋人は普段はクールでカッコいい人なのに、こういう仕草が甘えん坊でとても可愛いのだ。何となく胸がキュンとして、もっともっと甘やかしたくなってしまって、黒猫みたいな彼の顔を覗き込む。顔を近づけると意図に気付いた消太くんがにんまり笑いながら「キスしたいのか?」なんて意地の悪い口調で問いかけた。
「キスしたくなっちゃった。してもいい?」
「爪牙はワガママだからな。してもいいよ」
僕よりも消太くんの方がよっぽどワガママで甘えん坊で可愛いと思うけれど、そんなことを言って彼が拗ねてしまっては困るので、僕はだらしなくニヤニヤ笑いを浮かべつつ、寝転がる消太くんの唇に顔を寄せた。こちらの様子を窺い見る恋人の黒い瞳を覗き込み「消太くん優しいから大好き」なんて、デレデレに鼻の下を伸ばしながら、僕はキスをしたのだった。
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170219
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