He became a woman.43.
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休日の朝10時、早起きした僕はせっせとパンケーキを焼いていた。パンケーキといっても当然お店のように生クリームやらフルーツやらが乗る手の込んだものではなく、スーパーの在庫処分用ワゴンに放られ安く売られていた、パンケーキミックスというミックス粉を利用したものだ。パッケージの裏に記されたレシピを見ながら牛乳と卵を混ぜた粉を混ぜ合わせ、熱したフライパンに流し込む。たったこれだけで何となくそれなりのものが出来てしまうのだから近頃のレトルト文化はすごい。料理上手ではない僕にとってありがたい世界だ。
気泡が浮き出た頃にパンケーキをひっくり返して、ワクワクしながら表面を見ると、焦げてはいないものの火が強かったのかほんの少し茶色が濃かった。これは僕用だ。次は火加減に注意して焼こう。濡れ布巾にフライパンを押しつけて温度を下げ、もう一度火にかけ生地を流し込む。コンロを覗き込みながらつまみを慎重に回していると、玄関のドアが開く音が聞こえてきた。ジョギングに出ていた消太くんが帰ってきたみたいだ。
「ただいま。……いい匂いするな」
「おかえり消太くん。もうちょっとで出来るよ。頼んだもの買ってきてくれた?」
「ああ。これでいいのか」
ウインドブレーカーのフードを片手でずり下ろしキッチンへ顔を覗かせる消太くんの額にはうっすらと汗が滲んでいる。学校の先生とはいえプロヒーローでもある恋人は暇さえあれば体を動かしているようだけれど、今朝は朝食もそこそこにジョギングへ出かけてしまった。きっとお腹を空かして帰って来るだろうと踏み早めの昼食を用意していた僕の判断は正しかったみたいだ。左手に提げたビニール袋を受け取ると、彼の腹がギュウゥッと切なそうな声をあげた。
「あはは、消太くんのお腹は正直者だね」
「持ち主と同じでね。で、何作ってんの? ホットケーキ?」
「ううん、これはパンケーキ」
「ホットケーキだろ」
「でも商品名にはパンケーキって書いてあるよ」
「へー。どう違うんだ?」
「うーん……わかんないや」
「……言ったもん勝ちだな」
消太くんは呆れた顔で髪をかきあげる。僕は笑いながら、袋の中に入ったハムを取り出した。本当はハムチーズのパンケーキを作ろうと思い昨日のうちに材料を用意したはずだったのに、今朝になってハムを買い忘れたことに気付き、急遽消太くんに買ってきてくれるよう電話で頼んだのだ。消太くんには「ハムチーズ作ろうとしてハム忘れるか普通」と批難され、自分でも我ながらうっかりが過ぎるなとは思う。とはいえ無事に材料も集まったので結果オーライということにしてほしい。「腹減った……すぐ食えるか?」匂いに吸い寄せられ僕の後ろに立った消太くんが、腹に腕を回してそう訊ねてくる。パンケーキをひっくり返すため手元を注視する僕のうなじに唇が落とされるとくすぐったいけれど、なんだか幸せだ。
「すぐ出来るけど、もうちょっとかかるからシャワー浴びてきていいよ」
彼の手を撫でて言う僕に、消太くんは「どっちだよ」とツッコミを入れたあと、服を脱ぎながら洗面所へと向かうのだった。
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170215
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