きっとキスの味は

唇が触れる、その距離に、心音がひとつふたつ、どくりと高鳴る。
最初は指先が重なる事すら戸惑っていたのに。彼女の気持ちを知った、今は。







――きっと、キスの味は







ファイナルを終えて、漸く自分の気持ちを彼女に伝える事が出来た。
気持ちを打ち明けた後は晴れの日の空みたいな清々しい気分で、伝えて良かったんだと、思う。
恥ずかしがっても居たけど、それでも彼女は笑ってくれたから。

悩んで、八つ当たりみたいな事をして、ひどい言い方だってしたのに。彼女は優しかった。まるで、ふわりと包み込む日溜りみたいに。
彼女が、小日向さんが居てくれたから、きっと強くなれた。
行き場を無くして、息継ぎすら上手く出来なかった、そんな自分の背中を押してくれたひと。
彼女のお陰で漸く、音を見付けられた。本当に、チェロと一緒に唄いたかった歌を。
チェロを止めなくて良かったって、天音のチェリストはオレなんだって今なら、胸を張れる。


「オレ、あなたで良かったです。あの日、出逢えて、話を聴いてくれたのが小日向さんで」
「そう、かな。私は冥加さんが止めてくれても、七海くんは立ち直れたんじゃないかと思うんだけど」
「え、部長は…あんなオレ見たら、怒るの通り越して呆れるに決まってます!部長はすごい人だから、きっとあんな力のないオレ何か」
「ストップ。七海くんの悪い癖だよ?オレ何か、って自虐的になっちゃうの」


めっ、何て言ってこつんと右手。
それ以外にも唇にやわらかいものが、触れている。最初より距離が近付いて居て、急激に体温が上昇。
彼女の指先が言葉の続きを塞いだ。
思うように喋る事も、動く事すら侭ならなくて、顔の熱だけが妙に高い。早く、離れてくれないと、顔から湯気が立ちそうだ。


「ふふ、七海くんの唇やわらかいね」
「っ…!」


ふにふに押して来る指先が離れたら、動けるようになると思っていたのに。次に来たのはあまりに大きな、甘い衝撃。
まだ、心臓は自由を得ない。


「こ、小日向さん…!」
「私も、七海くんが大好きなんだよ。好きな人には笑って欲しいし、もっと甘えて欲しいな」
「オレ、ど、努力します!その、オレも同じです、だから、」


出来る事なら、今度はあなたの力になりたい。
頼りないかもしれないけれど、それでもいつも勇気をくれる、誰より大切なあなたの為に。

頬の熱が引く前に、太陽がふたりを見守る、この時間に。
もう一度、影を重ねよう。
キスの味は、甘くて、すごく幸せな味が心をいっぱいに満たすから。











おわり.

22.6.1.村棋沙仁


拙い文章を読んで下さって有り難うございました!
この文章は天上の音を、君に様に提出させて頂いたものです。
大好きな天音の作品に囲まれて幸せです(^^)主催者様、参加者様、そして読んで下さったあなた様に心より感謝を。











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