いい暇潰しにはなったかな

状況を理解するまでに時間を暫く必要とした。
ぱち、ぱちと大きく瞬き。それから、確認なんて今更かもしれないけれど、ぐるりと辺りを見る。
学園では、ない。自分の家でも、ハルの家でも、ない。見た事のない高い天井、殺風景。
高級感が漂うのに、何となく、冷えた感じがする。
むくり、身体を起こした場所はソファの上だった。カチカチ、時計の針の動く音がする。誘われるようにその場所に視線を向けたら、やけに外が暗い理由が今になって解った。

父や母に何と言い訳しよう。帰りが遅くなる時は必ず連絡していたし、大概ハルの家か、学校に残っての練習が理由だったから、両親を怒らせたり心配させた事は今まで一度もなかったのだ。
ハルの事は家族みんな知っているし、泊まりに行くなら迷惑を掛けないようにと手土産を持たせられるのが常だった。今日だけが、何時もと違う。
此所は、親友の家ではないし、まだ、家に電話もしていない。どうしようかと考えて携帯を取り出した時、部屋の主がやって来た。


「何だ、起きたの」
「あ、天宮さん…すいません、オレ、何か迷惑掛けちゃったみたいで」
「へぇ、迷惑掛けた所迄は記憶にあるんだ」
「え、あ、えっと、ほんとにすいません、オレ、直ぐ帰りますから」


ソファに戻って荷物を手に取る。チェロと、鞄。もしかして、両方とも天宮が運んだのだろうか。階段を登ったりエレベーターに乗った記憶がないから、恐らくそうなのだろう。
此所に来る前後の記憶が曖昧なのもおかしな話だ。眼が覚めたら此所に居たのだが、何が悪いのか解らないにも拘らず七海は謝罪する。此所に居るという事実が、天宮の手を煩わせたのではないかと推測して。
眼が覚めている現実の今すらも夢の中に居るようで覚束無い。


「もう七海の家に連絡はしてあるよ。帰れそうになかったからね」
「あ、でも」
「どうしても帰りたいって言うなら僕は止めないけど」


時計を見るに時刻は既に深夜を過ぎて居て、とても外を歩こうと思える時間ではない。もう少し明るくなって、朝日が登ったなら帰れなくもないだろうけども。


「…すいません、やっぱりもう少しだけ、居ても良いですか」
「だから最初からそう言ったのに。余計な気、回さなくて良いよ」
「あの、有り難うございます」


すとん、と七海の隣りに天宮が腰を下ろす。
眼が冴えて終ったからもう一度眠ろうとは思わなかった。
手持ち無沙汰で思わずチェロに手を伸ばし掛けた刹那、天宮が口を開く。


「公園でチェロ抱えたまま、寝てたよ。起こしても起きないから、冥加呼んで抱えて来て貰ったんだ。放置する訳に行かないしね」
「え、え…?!す、すいません!お、オレ、冥加部長にとんでもない事…」
「そっち?」


そう言えば。記憶を辿ってゆくと、山下公園に辿り着く。チェロを弾いて居たら、やわらかくてやさしい音が響いて来て、あまりにも心地良くて、うとうとと。そのまま睡魔に負けて、夢の世界へ。
あまりにも居心地が良くて、起きちゃいけない気が、した。遠くで声がするのに、眼を開けられなかった所まで、覚えている。


「ああ…最低だ、オレ…天宮さんも頬叩いてでも、起こしてくれれば良かったのに」
「七海は時々、無茶な事言うよね。まあ、取り乱す冥加も今の七海も面白かったから良いけど」
「面白いって…オレは全然、面白くありません!そりゃ起きなかったオレが悪いし、迷惑掛けたのはオレですけど」
「そうだね。七海が公園で無防備に寝たりしなければ僕は普通にこの時間寝れていた訳だし」
「…すいません」


威勢の良かったのは最初だけ。当然の指摘をされてしゅん、と七海は悄気返る。


「でもまあ、いい暇潰しにはなったかな。この部屋に誰か来るなんて滅多にないし、珍しいものも見られたし」
「こんなに広い部屋なのに、誰も来ないんですか?」
「そもそも呼ばないからね」
「じゃ、じゃあ、オレ、今度お礼に何か作って来ます!冥加部長と、小日向さんや枝織さんも呼んで、この前みたいにみんなでお茶会しましょう」


どうしてこの子はこう、名案、みたいにどうでも良い事を提案して来るのだろう。思えば神戸で路上ライブをしたのも、あのお茶会も七海が言い出した事だった。
それでもまあ、どれも失策ではなく、結果としてプラスではあるのだけど。


「何でそんなに楽しそうなの。此所、僕の部屋だよ」
「オレ、声掛けて置きますから、任せてください」
「そうじゃ、なくて……ああもう良いよ、好きにすれば」
「折角綺麗で広い部屋なんだし、使わないと勿体ないですよね」


呆れたように言っているのに七海は話の半分も聴いていない気がする。既に眼をキラキラさせて実行すべき事を考えているらしい。そういう行動力はもっと別の所で発揮すべきだ。
例えば、あの、ファイナルの日のように。

「七海」
「はい、何ですか、天宮さん」


正直、不安はあったし不満もあった。冥加のアンサンブルのパーツとして組み込まれて面白いだけなら良かったけれど、メンバーがピースとして当て嵌まらない度に冥加の眉間の皺は増えて行くし。
それに、合わせる側としても揃わないバラバラな音は詰まらない。
残りのひとりが七海で、良かった。こんな風に迷惑を掛けられもするし、突拍子もない事を言って驚かせもする。けれど、彼を足したお陰で3年生として過ごす残りの数ヶ月、随分彩り鮮やかになったと思う。これは良い変化だ。


「どうせなら、3人だけでしようよ。その方がもっと面白いから」


小日向かなでや冥加枝織は素晴らしい滑剤油にしかならない。穏やかで円滑な進行をわざと阻んで、新しい形のお茶会をしようじゃないか。驚いた七海の表現がやけに面白くて、天宮だけがふふ、と笑う。

深夜だと言うのに、わくわくする程楽しいのは普段居ない筈の人物が居るからだろう。本当に、七海宗介は良い意味で現状を打破してくれる。
七海の計画に荷担しながら天宮は、今度公園で寝て居たら、額に内と書いてやろうと密かに思った。











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22518.村棋沙仁

ぐだぐだすぎて意味がわかりません。
天音だいすき!ってことが言いたかった。
天七が好きすぎてもうどうしたらいいかわかりません。上手く文章にならない○| ̄|_








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