一緒に行ってあげてもいいよ

正直、面倒だと思っていた。何だって誰かと並んで昼食を取らなければならないのか。
七海宗介のする事は僕には理解出来ない事ばかりだ。昼ご飯くらい、ひとりで好きなように食べたら良いじゃないか。
そう思って断ったら、尚も食い下がる後輩。どうしてそんな下らない事にだけ頑ななんだろう。音楽に対してももっと、そうあれば良いのに。そうやって、粘り強く、自分の持ち味を生かしてぐんぐん追い上げて来れば。きっともっと伸びる。
音の姿勢に貪欲に成り切れないのは、不器用だからか。それとも、冥加そのものに恐れをなしているのか。
後者だとしたら、やっぱり相当下らない。
誰かの為に、他人に音を斃される、何て。まるで、形のない模造。それじゃあ僕と変わらない。


「じゃ、じゃあ、小日向さんも一緒ならどうですか」


ぼんやりと七海の言葉を聞き流して居たら、まだ諦めていないのか、名案だとでも言いた気な表情を向けて来る。


「そんな下らない事に彼女を使う何て、どうかしてるよ。七海は最初から僕に用があったように聴こえたけど、違うのかい?」
「つ、使う何て、そんなのじゃ…天宮さんだって、オレとなんかより小日向さんが居てくれた方が楽しいと思うから」


彼女にしてみても良い迷惑だろう。そういうのを、使うって言うんだよ。七海は、彼女さえ居れば僕が心変わりするかもしれない、という事を前提として言っている訳だから。
しかも自分だけじゃ僕が不満だとでも思って居るらしい。人が増えた所で同じなんだ。本当はひとりになりたかった。だから断ったのに、解らない子だな。
そういう、図々しい所をアンサンブルにも用いれば、冥加辺りが面白い事になるかもしれないのに。ああ、本当に彼は不器用だ。


「仕方がないから、一緒に行ってあげても良いよ。その変わり、次のアンサンブルの練習で試したい事があるから、合わせて貰うけど、良いよね」
「は、はい!ありがとうございます!」


昼食の席で冥加も来れたら良かったのに、何て、言ったという事は、とどのつまり、冥加も七海に強引に誘われたに違いない。何だ、自分の意見をちゃんと言えるんじゃないか。心配していた訳ではないけれど、これなら、天音のアンサンブルが完全に完成するまで、そんなに掛からないかもしれない。
その隠れた力には、自分で気付かなければ意味がないだろう。きっと、冥加も七海の秘められた音色に気付いている。解放するのは自分自身だ。

この時間が終わったら、音を合わせてみよう。賢くない後輩の後押しを少しだけ。
そうして、僕は音楽の完成を願う。











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22.3.16.村棋沙仁








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