世界はいとも簡単に

崩壊するものだ。
人形として生きた、小さな、セカイ。造られたニセモノの世界はやわらかいガラスケースのように一瞬でバラバラに散る。









横浜に場所を移した所で変わるものなんて在りはしない。そんなに簡単に変われるのなら、最初からそうしていたさ。
景色が変わっただけ、気温が上昇した、だけなんだ。
僕は僕から何一つ成長しないで、淡々とピアノを鳴らす。楽しいとは特に思わなかった。
誰かが手を叩く。その為に指を動かすだけ。

だから、表情のある音楽は少しだけ苦手だった。ズキリと、いきなり胸の奥を刺されるような感じがして、痛むだけで良く解らない。


「随分楽しそうに弾くんだね。チェロが好き?」
「え、あ、はい!オレ、こいつと歌うのがすごく好きで」


特待生ってやつは言わばあの人のコレクションだ。音の気に入った人形を集めては私欲を肥やす。
この学園に、その音が響き渡るのがどうやら嬉しいらしかった。僕は言われた通りに鍵盤をなぞるだけ。


「特待生何て柄じゃ、全然ないんですけど、でも、オレ…チェロが好きだから」
「好き、だけじゃ変わらないよ。音色を変えるにはもっと必要な事があるんだ」
「え…」


あの人は言うのだ。恋を知りなさいと。
七海宗介はまだ知らされていないのだろうか。優しすぎるほど穏やかな音しか知らない彼は。どうすれば、もっと高い所迄伸びるのかを。


「先ずは世界を変えてみたら?きっともう少し音が伸びる」
「世界、を…?」
「そう。例えば、僕が君の伴奏をする、とか」


例えば。油っこい料理に烏龍茶を添えるように。何かをプラスする事で身体に与える影響は違う。
例えば、花が水を吸い上げる、その生命力。
萎れたものが生きる為に力を振り絞る。
何かに及ぼされて色が優る、それはきっと何処か、音色に似ているのだ。
チェロに伴奏を添えただけで。
ほら、世界はいとも簡単に、
周囲の色を変えてゆく。

音を楽しむ、という事が少しだけ、指先から染み入って、脳を震わせた。何時か、この色は変われるだろうか。










22315.村棋沙仁


NA・ZO!







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