國津神
●國津神

「おや、月夜少将じゃないですか、僕に何かご用ですか?用が無いならさっさと失せたらどうですか。
汚らわしい変態が。」

「…りんご…ちゃん…?」

「その呼び方も非常に不本意です。頭の具合大丈夫ですか?一度精密検査受けた方がいいですよ。」

「…り…んご…ちゃ」  

「だぁかぁらぁ。黙れっていってるでしょう。そんな事もわからないほど陳腐なオツムしてるんですか。」

ありえませんね。

そう言う濃霧はいつもの慎ましやかな大和撫子のような人格は存在せず、月夜を見る目は不機嫌そうに歪められ足を組み椅子に座り月夜はその足元で正座している。

何故だ!何故こうなった!

それは少し時間を遡り、その日…4月1日の朝にまで戻る。

せっかくのエイプリルフールだ。

月夜はただ濃霧の女装が見たかった。

濃霧の可愛らしい姿が見たかった月夜は國津神軍全軍に命令を出した。

″今日一日は普段と真逆の性格で過ごすこと。破ったら射殺するねー全員ねー″

普段と真逆…。

月夜の考えでは自分は楽そうな普通の男になって、濃霧に至っては普段男の濃霧に女の格好でもさせて隣に侍らせようとしていた。 

しかしとうの濃霧の考えでは普段温厚な振る舞いを心掛けている自分は苛烈な振る舞いをすればいいのか、そうか、つまり月夜は苛烈な振る舞いをする自分に虐げられたいわけか、あーあの人(月夜)の考えそうなことだ。

そしてルンルンで濃霧に特注のミニスカ軍服を渡そうとして冒頭の会話に戻るわけだ。

「お前はいつもいつも僕を家政婦か何かとまちがえてるんじゃないだろうな。それから呼び方だ、『りんごちゃん』じゃなくて『林檎様』だろう?
誰を目の前にしているんだ?
…全く人間としての教育(躾)がなっていないな。
その根性を叩き直してやるから後ろを向いて歯を食いしばれ。其処の二等兵、そうだお前だ、海軍まで走って″海軍精神注入棒″拝借してこい。なかったら金属バットだ。」

海軍精神注入棒とは所謂ケツバット。

上下関係が厳しい海軍では普通に行われていた扱きという名の虐待の道具である。

最早敬語でもなくなった濃霧に危機を感じた月夜だったが濃霧から動くな!と命令されたので動くに動けず重い沈黙が二人の間に落ちた。

「濃霧准将「呼び方」林檎様!海軍より海軍精神注入棒を拝借して参りました!」

名も無き二等兵は土下座する勢いで木の棒のようなそれを献上した。

「…月夜、歯を食いしばれ!」

「あ、ちょ…あ″ぁぁぁぁぁぁ!!」

肉を叩く鈍い音と月夜の断末魔が辺りに響きわたり、その年から國津神国でのエイプリルフールは恐怖の対象となっていった。

毎年エイプリルフール限定で舞い降りる″林檎様″に一言罵られようと国中から濃霧を慕う者が訪れるようになったそうな…。


◆後書き◆

ドSな林檎ちゃんは如何でしょう。
作者としては林檎ちゃんに踏まれたいなんて考えなくもないですが、たまには月夜が尻に敷かれてもいいと思います。
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