「お勤めご苦労様でした」

「あぁ、」

九町真清が休日返上で潰したレジスタンス。
この国特有のプロパガンダの為に真清自ら先陣を伐る羽目になった。
しかも野放しにしている間に中々大きな組織になっていたらしく、本部の面積は広大で、周りを取り囲んでから攻め滅ぼす予定が、急遽変更され、正面から突撃している間に別動隊により爆破させて退路を塞ぐ、というやり方になった。
事後処理もなかなか面倒で書類がいつもより多かった。
全く、踏んだり蹴ったりだ。

将軍閣下は人使いが荒くていらっしゃる。

兎に角、先進国にあるまじきゴリゴリの殲滅作戦を完遂した真清はやっとのことで帰宅を許されたわけだ。
ここ数日、この一件の事後処理に追われていてまともに休息がとれていない。
妹の彩芽に至ってはこの休みに色々と約束をしていたのにまた果たせぬままだ。
なんとか荒ぶる心に折り合いをつけ国に対してクーデターを起こさずにすんでいるのはこの一件を労い、特別手当として今日から一週間完全な休暇を賜ったからだ。
これで隣国國津神が宣戦布告でもしない限り、真清の休暇は確実だ。
言い換えればこれはフラグがたつともいうが、今回は追及しないこととした。

「帰宅する」

ばさり、と軍服の裾を翻せば部下達が一斉に整列し敬礼する。
この訓練された犬のような可愛らしい部下の間を抜け、車に乗り込む。

「戦時に備え、君たちもよく休むように」

そう告げ、車を出させた。

ふぅと一息つけばすぐに睡魔が襲ってきた。
自宅につくまで20分ほど、少し眠るとしよう。





「少佐、着きました」

「ん。」

日が沈み辺りが薄暗く、西の空のみがうっすらと赤紫に滲むのが瞼の隙間から見えた。
部下の声で半分夢現をさ迷っていた意識が覚醒した。
半ば無意識に車のシートに立て掛けた日本刀を手に取り、部下が開けたドアから身をのりだし自宅の玄関へ向かう。
自宅から、知らぬ玄人等の気配がし、一瞬足を止めかけたが、数日前に意味の分からない侍じみた少年たちの居候をゆるしたのだったな、と思いだし、気にしないことにする。
後ろで待機する部下にも帰宅するように声をかけ、玄関の扉を開ける。

「お帰んなさい。真清さん」

いつもならば玄関口には妹の綾芽が子犬のように待っているはずが、私を出迎えたのは腰の刃物に指をかけながらも片膝をついた、居候の分際で一番私を警戒している男であった。

「、、出迎えご苦労。」

「綾芽ちゃん、"しゅくだい"したまま寝ちゃってて。」

そういいながら警戒を解かない目をした男は手持ち無沙汰にヒラリと左手を動かし、夕食か湯あみかどちらを先にするのかと聞いてきた。

「湯を先に使おうか。
猿飛、私の事は出迎えなくてもいいのだよ?
綾芽は好きでやっている。
子犬みたいなもんなんだ。」

「わかりました。
あー、、なんていうか、本当に申し訳ないんですが、竜の旦那とウチの旦那、、つまり伊達政宗公と真田幸村様は先に湯をお使いに、、。ついでに綾芽ちゃんもですが。
真清さんが帰られると分かってれば家主より先に湯を使うことはなかったんですが、、
あ、お出迎えですが、させてください。
俺様たちただでも大分な世話になってるし、家主がお帰りなのに誰も玄関にいないってのはどうかとも思います。」

世話になってる自覚があるのなら警戒心を解け、何故に家に帰ってまで気を張らねばならんのだ、と言いかけたのを喉の奥へしまった。

「いや、気にしないで良い。
私は帰りが不定期だし、湯を使う順番などは気にしない。
君やもう一人の片倉も気にせず湯を使ってくれ。
四人の野郎の出汁の取れた湯に浸かりたくなかったら自分で入れ直す。
出迎えの件は任せる。
まぁあんまり気負わんで。」

この時代の給湯器はスゴいんだぞ。湯だってほぼ使いたい放題だしボタン押すだけだからそんなに手間はかからない。とぽやぽやと呟きながら風呂へ向かった。


top content