「すごいわ、、この技術」

「そーだろ。俺様の国の最高傑作だぜ?最早芸術の域だろう」

「ほんとに芸術品だわ。」

「何が芸術なんだ?」

「アメストリスの機械鎧(オートメール)はその骨格から何から何まで金属で仕上げてるわけ。
だから、重量感があって、重厚。
それにはもちろんそうしなければならない理由があるんだけど、今回はそこは飛ばすわ。
けど、この国のは違う。
何か詳しくはわからないけど軽くて頑丈な素材で作られてる。
触ってみると陶器の人形の手足のように滑らか。
でも陶器とは確実に違うわ。
しかも、オートメールより断然コンパクトね。うでの太さがエドの3分の2くらいしかない。それなのにその動きや機能性はとても高い。
指先まで繊細に動く上に人以上の力を出すことも可能。
メタル以外の物質でここまでの物性を持つなんて、、、全く別次元の義肢ね。」

「陶器ってのはいい線いってるぜウィンリィちゃんよ
材料は高分子材料、プラスチックってやつだ。
軽くて丈夫、これが売りだ。
だがしかし、こいつを作った奴は義肢屋、つまり機械屋でありながら、芸術家だった。
自身の美学を義肢に追及した奴はその素材にもこだわり、それこそ、ボーンチャイナみたいな陶磁器のような質感の再現に執着してた。
ただのプラスチックじゃぁこの手触りは出ないわけだ。
かといって陶器で作っちゃぁすぐ割れるし使い物にはならねぇ。
そこでハイブリッドセラミックという素材を使ってある。
こいつはプラスチックの弱点である磨耗しやすさやら変色しやすさをセラミックの成分を混ぜることでセラミックに限りなく近いプラスチックにしてるわけだ。
この素材を使ったことでこの強度にこの軽さ、そしてこの手触りなわけだ。」

純正のプラスチックってのはこういうのだ、とウィンリィに投げて寄越したのはプラスチック性の電子タバコのケースだ。
ウィンリィは手触りを確信し、呟いた。

「なるほどね、、、。
たしかに、少し違うわ。」

「だがしかし、やはり、全部金属で仕上げてるあんたらのほうが頑丈ではあるだろうな。
強度ではまだまだ金属には敵わねぇ 」

「それでもこれだけのしなやかさと軽さ、強さがあるならわざわざ重くて少なからず劣化する金属で仕上げる必要はないわ。」

義肢について熱く熱く、それは熱く語りながらウィンリィは、慎重に四月一日の義手を分解して行く。
破壊され、千切れた神経ファイバー部分に到達したが、この世界にファイバーなんぞあるわけがない。

「ツバキ、もっと調べてみないと詳しいことはわからないけど、恐らく動作不全の原因はこの神経部分が千切れてるってのが大きいと思う。
あと、幾つか他にも破損してて、細かい繊維の束が圧迫されてるみたいだからそこからも影響があると思う。」

「くそ、、ファイバーが千切れてちゃぁどうにもならねぇな。
どうにか代用できねぇか」

「そうしたいところだけど、人体と義肢の神経接合部の根本の作りが違うから無理ね、、」

そのかわり、と、破損し、内部を圧迫している部分は粗方の破片を取り除いた。

「破片を取り除いたはいいけど、この穴どうしよう」

「破片を繋ぐか。
応急処置だが光重合するのが手っ取り早そうだ。」

「え、そんなことできるの?」

おうよ、と、出してきたのは光重合型レジンのセット。
シランカップリング材にプライマーボンディング材、それに小型の光照射器だ。
シランカップリング材とは、レジンとレジンを結合させる際に用いる接着剤のようなものだ。
また、プライマーボンディング、とはレジンの接着を強めるために用いる接着保護材とでも例えておく。
これに光照射を与えることで結合するというしくみである。
しかし、もとより力のかかる部分であるので、これくらいの重合ではまた破損する確率が高い。
しかし、内部をむき出しにしておくよりは遥かにましというものだ。

「すごい、、、
くっついちゃった。」

「まぁ付け焼き刃だ。すぐ割れるわ」

「こりゃぁ、どうなってんだ、」

エドワードの問いかけに四月一日はぐっとつまった。
ウィンリィ相手なら自分の知識でもってしてもなんとか話になるが、キチガイじみて頭のいいエドワードだとどうしても知識劣りするうえに、説明する自信がない。

「詳しいことは聞くな。
この俺様に説明できるわけねぇだろ。
これを発明するのがお前らの仕事だろ学者さんよ」

たしかに散々鳥頭だと馬鹿にしてきただけあって四月一日の馬鹿さ加減は尋常じゃない。
自身がもとめる詳細な説明を四月一日にできるわけがない、と納得して取り消した。
しかしそれにしても驚くべき科学技術だ、とエドワードは再度感心するのであった。



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