「なるほど。」

一通りの仮説と現状の説明を受けたマスタングは、たっぷり5分ほど沈黙を守り、四月一日がその沈黙に耐えられず叫びそうになったその瞬間そう言葉を発した。

忠実な軍の戌の皮を被ったこの男に生半可な説明など意味をなさない事を熟知しているエルリック兄弟は、洗いざらい、四月一日について知っていること、推測したことを全て吐く羽目になった。

「つまり、このお嬢さんは別の世界の軍事国家の住人で何らかの錬金術が働いて、この世界に落ちてきたわけか」

「…俺たちはそう仮説をたててる。実際のところはわからん。
しかしこの阿呆にそんな手の込んだ嘘は言えねぇだろ」

無駄な事しか喋らない鳥頭な四月一日にはアルフォンスがついており、我慢の効かない彼女が口を開きそうになるのを宥めていた。
四月一日の発言は、挙手によってのみ、認められる。
その事をこの30分ほどでやっとのことで身につけた四月一日は、すいと、右腕を上げた。

「ワタヌキ君、発言を許そう」

マスタングの許可を得て、ようやく発言の機会を得るに至った四月一日は、理解不能なこの事態に対して米神にピクピクと青筋を浮かべながら地を這うような声で発言を始めた。

「ありがとうございます。糞大佐殿。自分が今どのような事態に巻き込まれているのか理解が及んでおりませんが、今優先されるべき事は、俺様が今からどのような処分を下されるのか。
出来れば、判決の後には飯とベッドと風呂の付いた所で眠りたいナァと思っております。糞大佐。」

「口を慎みたまえ。ワタヌキ君。
そうだなぁ、、、こちらとしても面倒事には付き合いたくない。
今この国の状況は些か問題がある故に君に構っていられないのが事実だ。
君が聡明で物事を考えながら言葉を喋れるレディであればある程度の自由は認めたいところだが、、」

いかんせん、君は阿呆だ。

と、言葉を締めくくるマスタングに、怒りのバロメーターが振り切れるも上官には手をだすな。反発するな。と元の世界の上司にキツく躾られている為にその怒りを解消できなくなっていた。
四月一日の頭はオーバーヒート直前である。

「司令部に置くにもリスクが高い。」

「僕たちが面倒見ようか」

「いや、オレ達もいつどこで監視されてるか分からねぇ。」

「あの、、」

今の今まで、マスタング、エルリック兄弟、四月一日、と共に席についていたのに全く発言のなかった、というか、発言する前にどんどん話が進んでいた、ロバート・スミスは漸く口を開く機会を与えられた。

「彼女を拾ったのは僕ですし、もし、許されるなら彼女の面倒は暫く僕が見ようと、、思います」

なんだか、僕には分からない事情もあるようですし、とぼそぼそと言葉を続けた。

すっかりきっちりスミスの存在を忘れていた錬金術師達は、危うく今彼らの抱えている国家レベルの問題まで露見してしまいそうな話をしていたことを深く後悔し、恥じた。
それほどまでにスミスの存在感はこの部屋において薄いものであったのだ。

「たしかに、それがよいかもしれないな」

「まぁ、元サヤだな」

元はといえば、スミスが少女を連れているという怪しい現場を連行するはずが、どうしてこんなことになったのだ、と思わず眉間に手をやるマスタングであった。
解決の仕様のない問題が露見し、今まさに自分の首ですら危うい今のこの時勢に、厄介な問題が増えてしまった。
しかもそれは、自分が招き入れた事態であっては目も当てられない。

「いいかい、ワタヌキ君、君はとても危険な立場になるかもしれないのだ。
あまり不用意に身分をバラさないこと、暴れない、叫ばない、喧嘩しない、、、エトセトラ
いいかい、本当に大人しくしていたまえ。」

四月一日に厳重に注意をし、エルリック兄弟とスミス、四月一日を司令部から放り出し、マスタングはようやく深くため息をついた。

「何て日だ、、」



top content