「全く持って不本意って奴だぜ。
何故(なにゆえ)俺様がチッコいチッコい少年に絡まれてんだ?マジで不本意。死ね錬金術師。」

真っ赤なコートに身を包んだ少年が青筋を立てながら四月一日に近づいてきた。
その雰囲気は将に一触即発。
そして其の一触即発な雰囲気を壊したのは此又四月一日にとって異色の初顔であった。

「まぁまぁ落ち着きたまえ」

一触即発の空気を読まずに間合い入った大佐ことロイ・マスタングは一瞬にて四月一日のの蹴りとエドワードのパンチに寄って沈んでしまった。

「なんだぁ?この童顔のおっさんは。」

「うっっっわっ。大佐だよ。やっちまっためんどくせぇ」

「この若いのに大佐だとぉ?
ふぅん、なかなかやるじゃねぇか。
先輩には適わんがな。」

その経緯で、職務妨害の罪でマスタングの部下リザ・ホークアイ中尉によって書類送検されてしまい、現在軍の施設に放り込まれたというのが今の状況である。

「よくよく反省しなさい」

とのお言葉を賜ったので四月一日にもエドワードにも保護者付きで現在軟禁中なのである。
因みに四月一日の保護者はロバート・スミスであり、エドワードの保護者は弟のアルフォンス・エルリックである。

「さっきの言葉だけどねツバキ、僕ら皆錬金術師だよ。
どっちに言ったんだい?」

ロバートは四月一日がエドワードに放った第一声を思い返して言った。

「全員だ。この野郎。」 

少しも考える事なく言い放った四月一日にその細い細い申し訳程度の堪忍袋の緒が切れたのか取り調べ室の様な其処の机を機械鎧(オートメイル)の腕でバシンと叩きエドワードはその額に青筋を刻みながら怒鳴った。

「黙って聞いてりゃてめぇオレのこと舐め腐ってんなぁ!!!ちょっと表出ろやぁぁ!!!」

負けじと四月一日も義肢の足を机の上でドシンと踏み鳴らし怒鳴る。

「お家から一歩外でりやぁ表だろぉぉ!!
従ってここは表だ!!だがしかし殺り合うなら話は別だぜチェリーボーイ!!!お空の下にて決戦だこらぁ!!!」 

ズイズイと互いに顔が近付き、後ろから押されればおでこが互いにくっつく距離である。

「上等じゃねぇか。てめぇが何処の何奴か知らねぇがオレは男女差別はしない主義だ。泣いても手加減しねぇからな。」

「てめぇこそ何様だ。このチビ。手加減しねぇってのはこっちの台詞だ。ガリ勉キチガイ野郎に負けるかよ。
その自信とプライドと頭のアンテナへし折ってやる。
序でにイカしたその手足もいでやんよ。」

そのチンピラの様な言い争いに両保護者は見ている人も居ないが情けなくそして羞恥を感じるのであった。

「んだとぉぉぉ!!!黙ってりゃぁいい気に成りやがって。
格の違い見せてやるよ」

「臨むところだ。エドワード・エルリック。
次元の差ってのをみせてやるよ。」

四月一日の中指が天井を指さした所で、エドワードの弟であるアルフォンスが二人に拳骨を落とすことで終結に至った。

「二人とも落ち着いてよ!みっともない!」





「四月一日椿だ。超絶平和主義者の美少女椿様だ。」

「エドワード・エルリック。史上最年少国家錬金術師だ。」

「史上最小?わろた。お前それディスられてんぞ。」

「最年少だ。お前の方がチッコいだろうが。」

「俺様は女の子だ。この野郎」

アルフォンスの提案で兎に角自己紹介でもしよう、と言うことになった。
ここで初めて互いは互いの名前を知ったのだ。

「所謂か弱い女の子は隻眼隻腕隻足なわけねぇだろ。
軍人か?」

ここまで黙っていたロバートは嫌な予感がした。
確かに四月一日は軍人だがしかしこの国の、最早この世界の軍人ではない。
そこでもし俺様は軍人様々じゃいなんて言われてみろ、そのとばっちりはロバートにまで飛び火する。

これは、釘を刺して措くべきだ。

そう判断し、口を開いた。

「ツバキ、」

が、ロバートより四月一日は単純で馬鹿正直でそして口が早かった。

「おうよ!俺様こそは國津神国軍の特攻隊を預かるモンだ。地位は軍曹夜露死苦な。」

ああ、やっちまった、この餓鬼め。

ロバートはふぅと、大きくため息をついた。

「…聞いたこと無い国だな、何処だ。」

知識が豊富なはずの自分が知らない国名に些かの不信感を覚えたらしいエドワードが少し真面目な声音になった。

あぁ、疑われてるよツバキ。

「あったりめぇよ。
おい錬金術師、説明しやがれ」

「其処まで暴露したんなら自分の尻は自分で拭うモノだよ。
まぁいい、これいじょうツバキが喋るとろくな事にならないからね、」

そうしてロバートは、四月一日の素性をぽつりぽつりと明かしたのだ。

ロバートからすればエルリック兄弟といえば有名な国家錬金術師で、かのショウ・タッカーを告発した張本人であるということも知っている。
そのエルリック兄弟には、特に兄、エドワード・エルリックの無くした手足に纏わる何か因縁めいたモノがあるのだと、死ぬ前のタッカーから聞いていた。
内容までは知らないが。

故に此方の情報を悪用はしないだろうと踏んでの説明だった。
勿論、ツバキにこの国に対する反逆や、敵意が無い場合の話であるが。

厄介な事になった。
こんなことならやっぱり空から降ってきた人間なんて拾うんじゃなかった。

ロバートは本日、生まれて久し振りに後悔という感情を感じている。
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