「ねえ于禁、一体何が不満なのかな」

「お前の現状のすべてだ」



そう、寸分の隙間すらなしに言い切った于禁を見上げながら、私は膝の上に乗った3匹の猫を代わる代わる撫でた。穏やかな風が背凭れにしていた樹の葉を揺らす。心地いい日差しは木漏れ日になり、少し肌寒い気もするがそれはそれでこの子たちが温めてくれる。実に快適なこの空間に、于禁の怒気は凄まじく不似合だ。



「全て、それには色んな意味があるんだよ于禁、3つ全部も全てだし50こ全部も全てなんだ。数の指定がなければ私は君の眉間の皺の要因を消せない」

「・・・・・4つ」

「おっと、私の考えよりも3つ多いね・・・・むう、1つは君に何の言伝もなしに部屋から出たことかな? 普通に散歩に行ってきますと女官さんに言ったんだが・・・もう1つは・・・ああ、君の出迎えに来れなかったこととみた。私としたことが失念だ。ごめんよ于禁、謝るからいつまでも突っ立って見下ろさないでくれ。首が痛いしなんだかせっつかれているようであまりいい気分じゃない・・・・仕事が終わったのなら君もゆっくりすればいい」



音を立てないように、自分の左横の土を叩く。ため息をついてガシャンと音を立てながら座る于禁。



「不正解だ」

「どっちが?」

「2つ目」

「ぐ」

「正直お前に出迎えなど期待してはいない。一つ目は合っている。散歩の言葉だけでどこに行くかすら伝えないとはな、さすがに肝が冷えた。」

「五将軍の一人であらせられる于将軍の肝を冷やすとはね、中々できない体験をさせて・・・冗談だから、皺を深くしないでくれないか」




けらりと笑えば、微かに上下する猫が乗る膝のわずかな隙間に于禁の指が乗る。本人としてはて全部を乗せたいのだろうが、残念ながら定員4人のこの場所はそうそう譲れるものじゃない。せっかく眠っている猫を起こしたくないんだろう。変なところで優しい男だ。
離れようとする手を両手で包んで指を絡める。じとりと睨まれたが照れ隠しに似たようなものだろう。初心か。



「なら2つ目3つ目4つ目を教えてくれないかな」

「・・・・1つ、この様な所に供も付けずに1人でいることだ」



ここは誰の敷地という訳でもない。人里離れて周りには木と草と岩くらいしかない原っぱだ。



「昔からのお気に入りの場所だったんだ。いうなれば秘密基地と言ったところかな・・・于禁以外はあまり知る人間はいないしね、迎えに来るなら君だと思ったし君にこそ迎えに来てほしいと思った」

「我儘も大概にせよ」

「おねだり位かと思ってたんだけど・・・心配させてしまったようだ、ごめんね于禁」



大きなささくれ立った手に頬を寄せて謝る。少しの沈黙の後に、3つ目、と于禁が呟いた。



「いつまでその名で呼んでいる心算だ」

「うう、こっぱずかしくてね・・・この年まで于禁で通していたんだから別に、いいんじゃないかい?」




于禁文則の嫁、という自分の立ち位置が未だに顔から火が出そうになるほど恥ずかしい。どうにかできないものか。正直于禁の字を普通に呼べる立ち位置にいれると言うのは嬉しいことだが、いざ呼んでもいいとなっても難しい。火照る顔を抑えようと下を向いた瞬間と、4つ目、と呟く声と、ガシャンという鎧の音がするのは同時だった。片膝をついて私の握っていないもう片方の手を今度はしっかりと手を置く。






私の膝にいる1人の上に。




「もうお前1人の体ではないのだ。このような所に薄着で来るな」

「そう、だったね。ごめんよ、その、ぶ、ぶんそく」

「・・・・・・」

「無言はよしてくれないかい!!?」




最も幸福な瞬間に呼吸をとめたい




「やけになるぞ文則。それでもいいのか文則。恥ずかしくないのか文則。いい加減その真っ赤な顔をこっちに向けてくれないかね文そ「少し黙れ」






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だれてめ? 知ってるー
だって、親愛台詞でお前を愛してしまたのだとかいうから! 言うから! 直情的だね!! 好き!!

title 星が水没