私はどうやら陳宮様が好きだったらしいと、陳公台その人に刃を向けながらふと感じ取った。武器である兵法簡を弄びながら子供のような笑みを浮かべる陳宮様を睨み付ける視界は少し霞んでいる。



「泣いておられるのですかなまえ殿」

「そうですね、悲しくてたまりません」



何で曹魏を離れるのかと、聞く気にはどうもなれなかった。ぼろぼろと、堰を失った水のように流れる涙を拭う気にはならない。



「涙はなまえ殿には似合いませぬ故に、どうかお恨み下され、詰り、罵倒し、誹られることも覚悟で、覚悟でこのようなことをしているのですから」

「私は、愚か者です、から、覚悟なんて言われると、何も言えないです」

「それは、それはなまえ殿らしい」



てってっ、と、陳宮様の足跡が近づく。私の刃のすぐ横を、陳宮様の首筋が掠めた。



「今の、今のなまえ殿に私は切れますまい」

「切れませんね、腕が、動かないです」



腕どころか、体の、筋の一本たりとも、傍にある首をはねようと動かない。気を抜いたら膝から崩れ落ちてしまいそうだ。ああなんて、私は詰めが甘いんだろう。



「私と共に来られませぬか、なまえ殿」

「無理です、私は、」

「さようか、それは、それは残念ですな」




この手を取れるかい



と、と近づいてすぐ離れた足の主は、握りすぎて冷たくなった手に少しの温かさだけを残して、どこかへ行ってしまった。






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キャラなんて蜀の呂布討伐戦でちょっと見ただけ。