ずるずると、何かを引きずる音で目が覚めた。元から雨やら雷やら蒸し暑さで浅い眠りしか出来ていなかった賈クが、起き上がって獲物に手を伸ばすくらいには目立つ音。しかし唐突に鳴り響いた雷の音に混じって聞こえた悲鳴で、賈クはすべてを察した。
「何をしてんだか」
入り口から顔を出せば、廊下にポツンと存在する白い塊。
「か、くさま・・・っ」
表情の少ない、通常ならば冷静ぶった無表情で犬のようについて回る愛弟子が、恐怖にひきつった顔を隠しもせずにずるずると自室から引きずってきたらしい毛布を頭から被ってしゃがみこんでいた。遠目からでは気づかなかったが、見れば涙目である。
「どうした?」
「かっ、か、かかかかかみなりがっ」
本気で怯えているらしい。ビシャリと響いた雷から逃げるように鳩尾辺りに顔面を激突させてくるものだから一瞬噎せた。
「・・・っあははぁこれはまた可愛らしい面をお持ちで」
がっしりと腕を回してへばりつくなまえをどうするか、3秒ほど考えた後にとにもかくにも自室に持っていくことにした。布団にくるまれたなまえを抱えあげても殆ど布の塊を抱えている感覚、で、あってほしかったのだが如何せん布団から伸びる手ががしりと胸辺りの布を掴むものだから、いやがおうにもさらけ出された無防備な腕が視界をうろちょろするものだから、賈クはなんとも形容しがたい気分をきれいさっぱりこそぎ落とすのに少々の時間を要した。
「か、くさま・・・っ」
「怖かったのか?」
「み、耳、塞いでも、ダメで・・・こ、こわ、かったんです、よぉ・・・っ」
「はいはい、雷警戒するくらいなら逸そ俺も警戒してほしいもんだね」
「?」
「いや何でも、ほら、寝床貸してやるからとっとと布団被って寝なさい」
最悪、地べたでもいい、早く寝てしまおうと寝台になまえを下ろして視線を外す。
小さく、引っ張られた裾に頭を抱えたくなった。
「い、行かないでください・・・っ」
「・・・あのねぇ」
「わ、がままなのは分かってます、でも、その・・・」
我が儘、そんな甘っちょろい言葉で済ませることができようか。言葉を必死に紡ごうとするなまえの横にドカリと座って、なんとも情けない表情を浮かべる顔を叩くように平手で覆った。
「ヘソ取られんよう見といてやるから、早く寝ろ」
「あ、りがとうございます・・・」
安心したのか、すんなり目を閉じるなまえの横に倒れて、嫌がらせがてら頬を摘まめば少し呻いた後に擦り寄ってきたので、もう賈クは手を出すのを止めた。
理解を拒んだ日