「滅せよ悪の化身!! 其は即ち禍(マガツ)の息吹と凶事の行軍!!
消え去れ奉先ンダォラアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
ガコオオオオオオオオン!!!
「はー、ストライク、ストライクですなぁ。お見事ですぞなまえ殿」
「まだだ!! まだ足りんよ陳宮殿!! ああああああもうむかつくあの巨人の爪先5センチほど切り落としてやろうか!!」
「シンデレラ(原作)ですかな。あと正直身長縮めるならかかと切った方が簡単かと」
「奴のかかとを落とせると?」
「逆に爪先なら落とせる自信があると?」
無理かな。無理ですなと顔を合わせて、陳宮さんがボウリングの球を引っ掴むのをベンチで見る。さて今日も始まりました。飲まない酔わないボウリング大会かっこボロリもあるよ。ストレス発散目的でガッコンガッコンするのも何度目になるのだろうか。まぁそれくらいあの巨人デカブツファッキン野郎こと奉先にむかっ腹がたっているのだ。
「まぁ、なまえ殿が斯様に怒る理由、分からなくもありませんがなぁ」
「そうでしょう陳宮さん!! 毎時チビって言われて仕事してたらファイルを頭に置かれて「気づかなかった」ってあんにゃろいけしゃあしゃあと!! しゃあしゃあって何!! いけって何!! ああああもう嫌い!! 大嫌い!!」
「なまえ殿が障壁になって私が助かっている面はあるのでありがたいですがな」
「160cmかっこ笑」
「おや、150にも満たない幼児体系が何か言いましたかな」
言い合いをしながら投げた球はスプリット。端と端に一本づつ残ってしまった。
「ほい交代」
「何とも、何とも嫌な残り方で.........
ですがまぁ、このまま何もなくやり過ごす、と言うのは少々気が引けますなぁ」
「策がおありか陳衛門卿!!」
「もはや何がネタなのやら」
陳宮さんが球を投げた数秒後、スーペアーと声が響き渡る。
「おーいごんぶとー巨木ー」
「貴様よほどぶん殴られたいようだな」
全く何なんだ。ほとんど同い年にも拘らず昔っからにょきにょきにょきにょき私のほとんど倍はありそう(ないけど)な2mが上から重圧をかけるのがどれだけ痛いか知らんようだな。何時か4m強の巨人に同じ目にあわされることを切に願う。
帰宅した奉先のアパート前、ぐしゃっと頭を潰すように掴まれたせいで頑張って櫛を通した髪の毛が半壊した現在が、ボウリング大会兼ちょっとした作戦会議の次の日。ちんきゅえもんが授けてくれた策とこの紙袋。陳宮さんが作り上げた所謂びっくり箱と言うやつだ。中身は全部陳宮さんプロデュースなので相当厄介な中身が入っているのだろう。予想。
「あ、そうだ、そらこれ、ハッピーバレンタイン」
あくまで平然と、何でもないように渡すその箱を「あ?」と言う顔で受け取る奉先。ここで余計な追撃をすればいくら奉先でもばれる。へいパスとそれを渡して、すぐさま、誕生日プレゼントをもらった子供と同じ速度でラッピングリボンと紙を剥いでいく。おいおいここで開けてくれるのか。楽しみですなぁ。
引っ掻け金具に、奉先の大きな指が触れる。
パァンと、破裂音が響いた。
奉先の目が真ん丸に開く中ひらりひらりと宙高く舞ったハートがお行儀よく奉先の頭に積もっていく。まるでどこぞのアイドルグループのPVのようだ。可愛いじゃないか。ポニーテールでハートなんて。ポニシュシュでも歌えば良い。こんどは花柄のシュシュでも買ってやろう。
やや、時間をおいて、いやちょっと待ってとメシウマ気分でいた頭を止める。
私の上げた物の中に赤のハートなんて、少々意味深ととられやしないだろうかと思い至った。まぁ私とそもそもどういう意図で陳宮さんはハートマークをわざわざ詰めたのか。正直ぐーぱんが飛ぶ系の奴だと思ったのに、意外や意外。
あっけにとられて恥ずかしくなって、まぁまず落ち着こうぜと息をして、落ち着いた心でこのハートに深い意味はないことを奉先を見直そうと首を動かしたところで。
ああ、私こんな光景漫画で見たぞ。あれだ。世紀末覇者って奴だ。
「覚悟はいいななまえよ」
「ま、待とうか、まとうか奉先、暴力は駄目だよ、暴力は」
「先に仕掛けたのはお前だぞ」
「いやあっはっは、仕掛け作ったのは陳宮さんだし私じゃないね、てことでサラダバアアアアアアアア」
戦略的撤退、ダッシュで逃げるを選択した私の速度はマッハを超えた。しゃおらぁと女を捨てたアスリート走りでアパートの廊下と階段を疾走する。ああ!! 後ろに!! どこぞの誰かが志村後ろと言うから振り返れば。そこにはどこかしら赤黒いオーラを纏っているように見える奉先が4階から三階への直通路(と言う名の「階段を使わず通路の鉄枠で新体操よろしくぶうんって体振って3階に飛び降りる芸当」)を使って私の前に降り立った。気分は学校の怪談。パニックホラーサスペンス。
まぁ、
あっという間に捕まったさ。小5引きこもりバーサス大学2年運動サークル所属くらいの力量差だ。当然のことだった。
人の通らない3階と2階を繋ぐ階段の中腹辺りでグイッ、ドンッ、バンッと壁に叩き付けられた私の痛みをこいつにどう伝えるべきか。でも、まぁ今は謝るのが得策だろう。
「っ、はー、も、ごめんって、調子に乗りました。でも奉先もいけないんだよ人の事ちびだのゴマ粒だの言うから
あとあのハートに深い意味はないよ、ないからね、」
「........................」
「お、おーい、おーい、奉先さん?」
聞いているんだろうか。真上にある奉先の顔が完全に無表情だ。とりあえずしゃがんでくれないかなと手振りすれば、見事、奉先が片膝ついて座ってくれた。未だ所在地が膝の間なので恐怖感は薄れないが、まぁましな方だ。よーしよーしそのままそのまま次は後ろに下がってみようかと完璧猛獣使いの気分でハンドサインを繰り返す。おおっとそんな手が奉先の巨大な手で捕まえられてしまったぞ。本気で怒っているんだろうか。ずいと近づく顔に、思わず悲鳴が飛び出た。
「ちょ、え、あの、奉先さん? あ、謝るからさ、」
「黙っていろ」
黙れってお前と抗議したかった。それを、目の前の男が。私の頭の両脇に手をついて、
人の口に齧りついて止める
「っん、ん!?」
少しの痛みの後に、異常なまでに口の中で暴れまわる舌。こっちの呼吸なんて考えてない。むしろそれごと食ってやると言わんばかりの、口づけと称してはいけないような行為に、ああ、だめだと、思う。殺す気だ。そうでなきゃこんな苦しいことするわけがない。
「んん、ふ、やだ、ぁ、んむぐっ」
「黙っていろ」
「〜〜〜〜〜っ」
離された合間に囁かれる掠れた声が耳に響いて、力の抜けた細っこい体が奉先に抱きとめられる。ダメだって、苦しい、息ができない、恥ずかしい、
心臓が、持たない。
何とか離れた瞬間に手で口を覆って、絶対に奉先と顔が合わさらない所に顔を入れ込む。おいおいおいおい冗談じゃないよ完全に見た目が幼気な幼女誘拐してあれやこれやされそうになってるやつだ。一生分の半分はなってるんじゃないかと思うくらいドドドと煩い心臓を片手で押さえながら声を絞り出す。
「.....っ、はぁ、ほうせ.....っや、あやまる、から.......っ こんな冗談........ッ」
「冗談でこのようなことをする男だと思うか」
「おも、て、ないけど........っ、ぅあ」
ぐいと、必死の抵抗むなしく顔を持ち上げられて、また目が合う。完全にしゃがんだ奉先の顔は私よりも低い位置にあった。
再び、近づく口に抱いた恐怖感。止めようと伸ばした手を握られて、指が絡む。
「言っただろう」
先に仕掛けたのはお前だと、