「……これは、」
広がる、いつも見ていたはずの光景が色を変えてそこにありました。単福さんと別れる際にもらったマフラーのようなもので口を押えます。ズタボロで呻く衛兵らしき方。次々と上がる悲鳴は女性の物男性の物入り乱れてよく分かりません。急いで踏み入った書庫には誰もおらず。奇跡的に誰も入っていないのか荒らされた跡もありません。あれ、陳宮様は?
曹操様の留守を守る拠点として使われていた濮陽城ですが、守りとして少なくとも陳宮様や夏侯惇様がいらっしゃるはずです。どこかへ救援に向かった? どこに、楽進兄様や夏侯淵様もこの大事態に駆けつけておられるはずなのに。
「隠れているものはエン州牧呂布様の名のもと皆殺しとする! 投降する者はこの張超の前に出よ!」
廊下に響いた声に心臓が跳ね飛ぶかと思いました。エン州牧は曹操様の役職です。名乗った名前が本物であるなら張超は張バク様の弟さん、流石に自分の喉先に刀持ってくるような真似はしないでしょうし、張超と丁様は無関係でしょう。
まあ、証拠も何もないので疑ってかかってはいけないんですけど
「誰だ!!」
「どうも、張超様」
縮こまってやり過ごそうと思ってはいましたが気配の消し方なんてわかりませんし、見つかってしまいました。大きく目を見開く張超様。何か知ってそうですね。立ち上がって、玉を1つ、張超様の首の近くに近づけます。
「攻撃1つ」
手の一振りと同時に落下する玉から出た衝撃波が、張超様の体を石壁に叩きつけました。攻撃されるとは思わなかったんでしょうか、ノーガードだったので簡単に済みました。
「色々聞きたいこととかありますから、死なないでくださいね」
昏倒したらしい張超の体を紐で縛って、猿轡をかませてみます。多分、これで、大丈夫だと思うのですが......起きた瞬間に暴れられたら困りますし、薬とか色々持っているわけでもないので、まぁ、重しに棚1つ倒しておきましょう
「ひっ」
聞こえた悲鳴は案外近かった。暗い書庫の隅っこ。ガタガタと震えているのはいつしかここと似たような場所に私を閉じ込めた女官さんです。
「あ、あぁあっ、こ、殺さないで、お願い......っ」
「殺しませんよ、夏侯惇様はどちらへ?」
「い、いや、ゆるし、許して、殺さないで」
混乱状態。まともに話ができません。
幸いにも呂布、はここまで来ていないようで、この濮陽城の有様はほとんどが張超の仕業のようです。迎え入れやすいよう邪魔者を排除した。そんなところでしょう。
「私は外に行きますから、あなたはアレが起きないように見張っていてください。一応縛ってはいますが何をしでかすか分かりません。起きて襲ってくるようでしたら殺しても構いません」
「や、まって、いや、おいてかないで、しにたくない......っ」
「私がはいと頷けると思いますか?」
ポンと出て来た言葉に、どれだけの針がこもっているかは知りません。純粋な質問として聞きたかっただけなのに、絶望しきったような顔でしがみ付いた手を離して、また縮こまろうとする女官さん。
ああ、私、あの方々の前以外ではこんなにもイヤな性格なんですね。
「......逃げ遅れた、ということは逃げる方向は知っているんですね」
「は、はい......っ」
「気づかれぬよう、この城を出ます。もし見つかったときには、自力で逃げていただきますから」
Because, I study biting the bullet