皆、届かない*

「お目覚めかな?」

「……っ」

両手と両足をきつく縛られ、無様に床に転がされた私は目の前にいる数人をキッと睨み付けた。
私は由乃の味方をしていたのだが、天野の監禁事件の際、コイツらにまんまと捕まってしまったのだ。自分が憎い。どうしてこんなやつらに捕まってしまったのだろう。
由乃が心配だ。天野に見捨てられ、側に私がいない今、彼女はどうなっているのだろう。

「我妻さんの情報を吐いてもらいたいんだけど……」

「……」

「そう簡単に口は開いてくれなさそうだ。」

やけに余裕そうな笑みを浮かべている秋瀬に吐き気を覚える。コイツは由乃を追い詰めた。由乃に辛い想いをさせた。絶対に言いなりにはならない。
それより許せないのはコイツだ。
私は秋瀬の後ろで不安そうに見つめてくる天野を睨み付けた。「ひっ」と息を飲んだ天野を、隙あらば殺してしまいたい。周りに助けてもらってばかりの腰抜け野郎め。何度私と由乃がお前を救ってやったと思っている。

「そんなに我妻が大事か?
あいつは狂ってる……一番近くにおったあんたはようわかってるばすや!」

「これからは私たちと一緒に行動しましょう?
天草さんが居れば百人力ですわ!」

コイツらもコイツらだ。お気楽な頭をしてやがる。サバイバルゲームで、親友を失うかもしれないという状況の中、ずっと一緒に生きてきた由乃を裏切ることができるはずがないだろう。
無言のままでいれば、それを拒否ととったのだろう。日向とまおは悔しそうに顔を歪めた。

「まぁ、君を捕まえたのは我妻さんの情報を聞き出すためだけじゃないからね。
我妻さんを誘導する囮としても十分使える。利用させてもらうよ。」

「……っ」

秋瀬或。コイツは本当に厄介だ。頭も回るし身体能力も高い。下手に話すとボロが出そうで、私は無言を決め込んでいたのだが、今目があっただけでもすべてを見透かされているんじゃないかと思ってしまう。

「君にはしばらくここにいてもらうよ。念のため見張りを着けようか。
2時間ずつ交代で、まずは日向とまおちゃんにお願いしていいかな。」

「……わかった。」

「わかりましたわ。」

終始笑みを絶やさなかった秋瀬は、最後に私に意味深な目配せをしたあと天野と高坂を連れて部屋を出ていった。
途端に静かになる部屋。ここは一体どこなのだろう。
半ば睨み付けるように私を見つめる日向の肩に、まおが手をのせる。コイツらとは、一応友達ごっこをしてやったからな。まんまと騙されていたというわけだ。
今から2時間、コイツらと一緒。疲れるが、少し気を抜いても大丈夫だろう。



「なぁ、なんでや詩織!
うちら友達やったんちゃうんか?!」

予想はしていたがうるさい。私はわざとらしくため息をついて視線を反らした。
面倒だ。友達云々なんか、私は由乃さえいればそれでいい。

「お前も以前同じことを天野にしただろ。」

「っ、それは……っ」

「友達友達って、そこまで友達が大事か。
お前らは私のことを友達だなんて思ってたみたいだがな、私はお前らのことを友達なんて思ったことは一度もないよ。
今この縄さえなければ、すぐにぶち殺してやるのに、っ!」

「っ、」

パンッと音がなって、私の頬がじんと熱をおびた。
横を向いた顔を戻すと、まおが涙を浮かべて叩いた方の手をもう片方の手で握っていた。
本当にコイツらの行動や思考にはヘドが出る。私は口許に笑みを浮かべ、挑発するようにまおを見た。

「どうした?お前の怒りはこんなもんか?
もっとぼこぼこにしてもいいんだぞ。私は何も出来ないんだからな。」

「あなたは、殺す価値もありませんわ……っ」

「……、よくわかってるね。
少し見直したよ。」

由乃の足を引っ張ることになるくらいなら、私は死んだ方がいい。そう思っている私の心を察知したわけじゃないだろうが、私を苦しめるにはこれくらいの攻撃が一番有効だ。
その後も、妙な説教は続いた。いい加減に諦めればいいものを。コイツらは私をどうしたいのか、あらゆる手を使って天野側に引きずり込もうとしてくる。

「日向、お前は由乃が狂ってるって言ったな。
じゃあ私は狂っていないと言えるか?」

「……、詩織はっ」

「私はずっと由乃と一緒にいた。
由乃が我妻家に貰われる前からだ。由乃は、あんな性格にならなければならないような、ひどい生活環境の中にいたんだ。
私は、それを端で見ていた。
由乃は何も悪くない。由乃を追い詰めたこの世界が悪い。そう思わないか。」

だから私は、人の愛を過剰に求める由乃に応えようと必死になった。必死になって、そしておかしくなった。
おかしいのは由乃じゃない。この世界だ。そして、私自身だ。

「私はこの手で何人もの人を殺した。
由乃のためだと思っていたんだ。由乃に危害を加えようとするものはすべて私が排除してしまおうと、そう思って殺した。
でも、最近気づいたよ。
それは由乃のためなんかじゃない。私のためにやってることなんだってな。」

口許に笑みを浮かべたまま、息を飲む二人を見つめる。
傑作だ。まるで何かの物語を聞かせているように、私は言葉を続けた。このまま本当の私を知って、説得を諦めてくれればいい。

「由乃を誰にも取られたくなかったんだ。だから誰も寄せ付けたくなかった。
結局、私がやっていたことは由乃と一緒か、それ以上だ。
これでも私が狂ってないと言えるか?」

「……っ、嘘や、そんなん……」

「嘘じゃないさ。
そのおかげで、私の居場所はなくなった。
由乃を奪われてしまったら、私にはもう、帰る場所すらなくなるんだ。
死ぬしか、道はない。はっ、笑えるだろ。」

日向とまおは、うつむいたまま何も喋らなくなった。
諦めたのだろう。これで静かになった。壁にもたれ掛かり、ふっと息を吐く。

「………ーーええやん……」

「は?」

「ここを、帰る場所にしたらええやん。」

その言葉に耳を疑う。まっすぐ私を見つめる日向。私は思わず目を見開いた。
何をいってるんだコイツは。そんなこと、できるはずがないだろう。

「わかってんのか?私は人殺しだぞ?」

「でも、詩織はちゃんと反省しとる。
人を殺したことを後悔しとる。そこは、我妻とは違うとこや。
それに、ちょっとの間しか一緒におられへんかったけど、うちらはほんまに詩織のこと、友達やと思っとったんや。
やから、信じたい。詩織のこと。」

「信じたいって……」

信じてどうするというのだ。
私が人を殺したという事実は変わらない。一生背負っていかなければならないことだ。いくら反省したって、後悔したって、罪を償えるわけじゃない。
それに、私には由乃がいる。大切な大切な由乃。天野さえいなければ、今頃私と由乃は二人が結ばれる幸せな世界を造り出していたのに。
そうだ、天野さえいなければ。天野を庇うコイツらがいなければ……

「ふっ、あははははっ!
馬鹿馬鹿しい!私を信じる?ご苦労なことだな。信じてもらってもいいが、地獄を見ることになるぞ!
私は神になってこの腐った世の中を変える!そこにお前らなんかいらないんだよ!」

「……っ!」

「もう一度言うが、私はお前らを友達と思ったことはない。
殺さなかったのは、利用できると思ったからだ。
はっ、最高だよ、お前らの今の表情。私に絶望している表情だ。
出ていけよ。もう2時間たっただろ。目障りなんだよ。殺されたくなったら出ていけ!それかここで私を殺すんだな!」

「……っ、」

「日向っ!っ、あなたは、絶対に許しません!」

悔しそうに顔を歪めた日向は、早足に部屋を出ていった。まおも慌てて日向を追いかけていく。最後に向けられた視線は、もう、以前のものからは遠くかけ離れていた。

「……っ」

静まり返った部屋で、私は天を仰いだ。何故だか、酷く胸が苦しかった。喉の奥がきゅっと痛くなる。私はどうしてしまったのだろうか。
目頭は熱く、体が震える。泣きそう、なのか、私は。どうして。
どうして。



次に現れたのは高坂だった。
彼は私と目を合わせようとはせず、ただ遠くに身を寄せて静かにしている。
見たところ、私との二人きりを恐れているようだ。揺さぶりをかけるのにはもってこいの相手か。

「なぁ、高坂。」

「!、な、なんだよ」

「怪我、大丈夫か。」

呟くように言えば、高坂はしばらく黙ったあと、小さく返事をした。由乃によって傷つけられた彼は、そのせいで私を怖がっているのか、それとも……

「気まずい、か?」

「……っ、」

「私がまだ普通の中学生だったころ……、お前は、私が好きだったらしいな。」

「なっ、お、俺は……っ」

「その情報をいち早く察知したのは由乃だった。由乃のお前に対する風当たりがキツかったのはそのせいだ。」

悪かったな。と言えば、高坂はばつが悪そうに押し黙った。どうやらその情報は嘘ではなかったらしい。ますます好都合だ。このまま揺さぶりを続けていたら、あわよくば逃げられるかもしれない。
コイツの性格を考えても、揺れやすそうだ。

「私にはもう、時間がないんだ。」

「どういう、意味だよ。」

「DEAD ENDフラグがたってる。
私はこのままだと天野に殺されてしまう。
あいつは、ここを裏切る気だよ。」

「っ!」

判断力に滅法弱いコイツなら、こんなハッタリにもすぐに乗ってくるだろう。
私は戸惑う高坂に追い討ちをかけるように言葉を続けた。

「天野はこの状態での漁夫の利を狙ってる。秋瀬と由乃を対立させて、どっちも潰してやろうって魂胆だ。」

「あいつ……っ」

まんまと引っ掛かってくれているようだ。拳を握りしめた彼を心の中で盛大に笑いながら、表情は真剣に、高坂を見つめた。

「なぁ、高坂、折り入って頼みがある。
実は私も、お前のことが気になってたんだ。
私は、お前に死んでほしくない。だから、一緒に逃げよう。ここから。」

「……は、?」

「今の由乃は狂ってる。
その状態で私を人質に使ったら、きっと酷い戦いになって、天野の思う壺だ。
由乃も、高坂も死んでしまうかもしれない。
そんなの、嫌なんだよ……っ」

迫真の演技だ。
俯いて声を震わせれば、高坂は戸惑いながらも近づいてきた。このまま縄をといてさえもらえれば、私は高坂を気絶させて逃げればいい。

「が、我妻はいいのかよ。」

「由乃ももちろん助ける。
でも私が神になるためには、いつかは由乃は死ななければならないんだ。
私は私の目的がある。
協力、してくれるか?高坂。」

「……わかっ」

「そこまで。」

ハッとしてドアに目を向ければ、イヤホンをつけた秋瀬。そして、日向、まお、天野がいた。くそ、盗聴か。

「多分高坂君の時に動き出すだろうと思ってね。
悪いけど、高坂君に盗聴器をつけさせてもらったよ。」

「高坂君騙されてはダメですわ!
その人はあなたを利用しようとしているんです!」

「ぼ、僕はぎょ、漁夫の利なんかねらってないよっ!」

さすが、といったところか。私の思考を完全に読まれていた。
諦めて脱力する私と秋瀬たちを交互に見たあと、「本当なのか……?」と尋ねてきた高坂に、私は笑いが込み上げる。
本当に騙しやすいやつだよ、こいつは。ばか正直で格好つけ。狙うのにもってこいだ。

「嫌いじゃなかったよ。お前の騙されやすい性格。
秋瀬が来なかったら、お前は今頃あの世だろうがな。」

「……っ!」

大きく目を見開いて私を見つめた高坂は、途端に顔を歪め、私から離れていった。
これで逃げる方法はまずなくなった。もう、死ぬしかないか。
神になれなくても、由乃の足手まといになるくらいなら死んだ方がましだ。

「まだ2時間たってないけど、見張り役は交代だ。
次は僕がいくよ。死なれても困るしね。」

「っ、」

そう言って天野たちを部屋から出した秋瀬は相変わらず嫌な笑顔を浮かべている。
近づいてくる秋瀬に、私は顔を歪めた。



「これ以上近づくな。
近づいたら舌を噛みきって死ぬ。死なれたら困るんだろ。」

睨み付けると、秋瀬はゆっくりと歩みを止めた。
だからと言って死ぬことをやめる訳ではない。今からでも死んでやりたいところだ。

「相変わらず強気だね。
そこもなかなか好きなんだけど、君には本気で死なれたくないんだ。だから、」

「っ!、来るなって言ってっ、んぅっ!?」

一瞬の隙をついて私に詰め寄った秋瀬は、ハンカチを私の口に押し込んだ。吐き出そうともがくが、うまくいかない。本当にムカつく野郎だ。手段をことごとく潰してくる。

「さて、大人しくなったところで本題だ。
我妻さんの情報を吐く気はないね?」

「……」

「人質として使えると思っていたけど、ここから出したらすぐに死なれてしまいそうだ。」

何が目的だ、コイツは。
秋瀬の手が私の頬に触れる。身をよじって拒絶するが、手足を縛られた状態ではそんな抵抗も可愛いものだ。

「えらく嫌われているみたいだね、僕は。
我妻さんがそんなに大事かい?」

「……」

「そう。
嫉妬しちゃうな。君に想われる我妻さんに。」

「……?」

どういう、意味だ?
眉を寄せて秋瀬を見ると、秋瀬はニヤリと笑って見せた。
嫉妬?由乃に、嫉妬……。それは、まさか、そういうことなのか?

「以前から君には興味があったんだ。
その強気な顔を歪ませてみたくてね。
我妻さんに構ってもらいたくて必死になのに、我妻さんは雪輝君に夢中で。
あわれな君は、本当に魅力的だった。」

「……!ん、んんーっ!!」

何を言っているんだ、コイツは。私をおちょくっているのか。
近づいてくる秋瀬の顔。私は必死に身をよじった。が、抵抗虚しく、私の首筋に舌が這う。ゾクリと鳥肌が立ち、私は言い表せない気持ち悪さに、目をキツく閉じた。

「んんっ、ん……っ、ふ、ぅっ」

首筋をすっと通り、秋瀬の唇が耳で止まる。ふっと息を吹き掛けられたかと思うと、ピチャッと音がして耳を舐められた。ピクンと体が跳ねる。生理的な涙が、頬を伝った。
悔しい。大嫌い、なのに。こんなやつに、私は……っ

「予想以上だよ。
君のその表情。すごく素敵だ。」

「……っ」

心なしか息が荒い秋瀬に、私は嫌悪感を覚えた。コイツは、おかしい。よほどのサドなのだろうか。それとも、マゾか。私のこんな表情を見たいだなんて。今の私はきっと、秋瀬を心から拒絶しているはずだ。
ハンカチが抜き取られ、暇もなく唇が合わせられる。ぬるりと入ってきたヤツの舌に、私は身を固くした。
嫌だ、やめてくれ……っ、こんなこと、由乃としかしたくないのに!

「っ、」

「はっ、ハッ、ァ」

精一杯の拒絶で、私は秋瀬の舌を噛んだ。顔を歪めて離れていった秋瀬を睨み付ける。
秋瀬の舌からは血が出ていた。ざまあみろだ。

「あははははっ!
最高だよ天草さん……!
本当に君は僕の予想を越えたことをしてくれる!」

「っ、この変態め……っ
必ずお前は私が殺してやる!」

「本当かい?それならもうこのハンカチはいらないね。
好きなだけ、君の声が聞けるわけだ。」

「っ?!
何してる!やめろ!!やめろっ、いやぁ!!」

履いていた短パンに手をかけられ、私は青ざめた。身をよじり、力の限り叫ぶが、秋瀬の手が止まることはない。その私の抵抗にすら、面白そうな、下手をすればいとおしそうな笑顔を見せた。

「聞いたところによると、我妻さんともこれくらいのことはしていたらしいじゃないか。
ますます嫉妬しちゃうよ。
でも、我妻さんは女の子だから。こんなことはできないよね?」

「やめろ!!やめろ!離せバカ!!
変態!!殺すぞ!!」

「それは怖いな。」

「殺すっ、殺してやる!!あっ、あぁっ、いや……っ、いやぁ!!
由乃!!由乃助けてっ!由乃ぉ!!」

下着もろとも下げられ、足の間に身を入れた秋瀬は、自身をゆっくりと私の中に埋め込んできた。床に押し倒され、押さえつけられた私は、抵抗ももはや口だけだ。

「我妻さんは、来ても真っ先に雪輝君のところに行くだろうね。
君はきっと二の次だ。にしても、こんな時に他の人の名前を呼ぶなんて、少し教育が必要かな。」

「ひいっ?!ぁっ、……あぅ、いった……ぃ、」

その言葉を合図に、濡れてもいないそこに、ギチギチと入り込んでくるそれ。
苦しさと痛さ、そして悔しさで、私は涙を流した。泣き顔を見られるのも悔しくて、拘束された手で顔を覆う。だが、その手も秋瀬に退かされ、私は惨めに頬を濡らした。

「もっとよく顔を見せてほしいな。
あぁ、すごく興奮するよ、君の泣き顔。」

「っく、はじめて……っ、だった、のに……っ
おまえ、っなんかに……ぃっ」

「はははっ、どう?僕なんかに処女を奪われる感想は。」

「最悪、だっ!!
っ、ふ、ぅ……っ、ひっ、ん、うぅっ」

「そんなに泣かれるとはね。よほど嫌われてたみたいだ。
でも、やめるなんてことはしないよ。あわよくばこれで君を手に入れてしまいたいからね。」

ヤツのものが、私の中を擦りあげる。腰を打ち付けられるたび、私は呻くことしかできなかった。ただただ揺らされる。
ヤツの気がすむまで、決して声なんか出してなるものかと歯を食い縛った。

「っ、っ、ふっ、ん……っ」

「耐えるね。
快感じゃなくても、痛みで声くらい出したいんじゃないかい?
天草さんのよがる声、聞いてみたいなぁ。」

「っく、ぅ、ぁっ、や、めろ……っ」

自身の唾液で濡らした指が、敏感な突起を撫で上げた。勝手に反応する体が憎い。締まりがよくなったのだろう。秋瀬は私の反応に気をよくして、そこをくにくにと撫で始めた。

「ぁっ、ゃ、ぁ……ぅっ、んっんっ」

「苦しそうだね。
素直になったらいいのに。ほら、君の中はぎゅうぎゅう締め付けてくるよ。」

僅かに水気のある音が聞こえる。これが私とヤツのものから出ているなんて信じたくない。
私が、コイツなんかに体を赦すなんて。無理矢理とはいえ、体が自由なら最大限に苦しませながら殺すところだ。秋瀬が憎い。酷く憎い。

「ころして……っ、ぅ、やるっ!
ぅあぁっ、……っ、お前なんかっ、殺してやるっ!!」

「この件に首を突っ込んだ時点で、死ぬ覚悟くらいはできてるよ。
命短い僕が、好きなものを追い求めちゃダメかい?」

「ふざ、っけるな……!
あっ、く……っう、私は、っお前なんか……あ、ぁっ!?」

「その先は、あんまり聞きたくないなぁ。」

頭は嫌だ嫌だと思っているのに、体は反応する。コイツの性格にはレディファーストのようなものが根付いているのか、犯しているにもかかわらず私にも快感を味会わせようとしてくる。そこがまたムカつく。これがなければ耐えられるのに、変な気遣いのせいで私は秋瀬が望む声を封じることでいっぱいいっぱいだ。

「さて、じゃあそろそろ限界も近づいてきたし、ラストスパートにいかせてもらおうかな。」

「っ?!な、にを……っ、ぁっ、やめっ……そんな、ぁっ」

激しく打ち付けられる腰に、私は天を仰いだ。大きく見開いた目から、涙がこぼれ落ちる。

「やめ、ろっ!やめろぉ!!
ぁぁっ、や……だっ、やだやだやだっ!!っうぅ、」

「やめないよ。
このまま最後までいくからね。」

「っ?!な、かに出すつもり、かっ!?」

「そうしないと君を手に入れられないじゃないか。」

「っ、いや、嫌だ!!やめろっふざけるなキサマ……っ!
っぅあ!?やめろ!っ、やめてくれ、ぇ!」

どんどんスピードが上がり、秋瀬の顔が快感で歪む。
私の必死の拒否も虚しく、中でヤツのものが脈打つのを感じた。
終わった。私は由乃を、裏切ってしまった。

「さい、ていだ……っ
ぅっ、ふ、ぅ……っお前なんか、っ大嫌いだ……!だい、きらいだぁ!」

関を切ったようにわんわんと大声で泣く私を見て、秋瀬は苦笑した。
どうして私なんだ。どうして。私には由乃しかいないのに。それをわかっているくせに。
泣きながら訴えれば、秋瀬はそっと私の涙を脱ぐった。

「だから、僕の所に来ればいいんだよ。」

「……っ」

すべてがコイツの計算の内。
私はコイツの計算から逃れることは出来ないというのか。
でも、せめて心だけは、ずっと由乃のことを思っていたい。だから私は、例え他人に体を許した私を由乃に認めてもらえなくても、由乃の味方でいたい。

「私は、っ由乃以外のやつの所になんかいかない。
拒絶されても、私は……っ」

「……さすがだね。
恐れ入ったよ。君は自由だ。」

「?、何を……」

秋瀬が徐に私の縄をときはじめた。困惑する私に、秋瀬は飄々としている。

「このまま人質として使っても自殺されそうだし、なにより我妻さんが怖そうだ。
それに、何度も言うけど僕は君を気に入っている。これ以上嫌われたくない。死なれてしまうのも嫌だからね。」

「……」

自由になった体を軽く動かしながら、私はさっと秋瀬から距離を取った。乱れた服を直すのもほどほどに、ドアの前に移動する。
秋瀬はそう言ったきり何も言わず、私から目を反らした。ヤツの気が変わらないうちに逃げるべき、なのか。戸惑ったのは、ヤツがやけに悲しそうな顔をしているように見えたからだ。

「さようなら、天草さん」

部屋から出たとき、ヤツがそう呟いたのが聞こえて、私は何故か少し胸が締め付けられるような感覚を覚えた。
さようなら、なんて、もう会えないみたいだ。



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力尽きましたよーぃ。




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