なかよく見えます
「ねぇねぇっ!
浅羽くんとどうやったらあんなに話せるの?」
「教えてよ詩織ちゃんっ!」
「お、おぉ……」
女子高生って怖い。いや、私も女子高生なのだけれど。だってこの気迫。さっきから私は「あぁ、」とか「おぉ……」しか言ってないもの。いつもなら友達と2人とか、多くても3人で行動する私だから、5人のクラスメートに囲まれたらたじろいでしまう。愛想笑いを浮かべるだけで精一杯だ。それもひきつってしまっているけれど。
「そういえば、ケンカ売ったっていう噂が流れてからだよね、仲良くなったの!」
「な、仲良く……?」
「ね、本当にケンカ売ったの?」
「い、いや、売ってない……けど。」
仲良く?あいつと私が仲良く!冗談はよしてくれ。仲良くなんかないだろうどう見ても。友達もなんだかんだで仲がいいと言ってくるが、あれのどこが仲良く見えるんだか。ただの嫌味の延長線の会話だというのに。
「私はただ、ありのままを言ってるだけで、たいして方法なんかないよ。」
言うなれば嫌味とか嫌味とか嫌味とかを言ってます。
私の返事がお気に召さなかったのか、スカートがやたらと短い彼女たちはそれ以上聞いてくることはなかった。あぁ、嵐が去った。とため息をつけば、次は後ろの席に誰かが座った。一難去ってまた一難、とでも言うのだろうか。毎回嫌なタイミングで来るよね浅羽って。今日は厄日だろうか。
「……天草さん。」
しかも何か不機嫌声で話しかけてきやがった。まてまて、私も今機嫌悪いんだ。こんな状態で2人が話したらクラスの雰囲気が最悪なことになりかねない。
「…………」
「…………なに。」
どうして無視出来ないんだ私っ!しばらく我慢したが、沈黙に耐えきれず振り返れば、浅羽は鼻と口を手で覆っていた。そのままジトリとした目で私を見てくるものだから、私も変なプライドから睨み返した。威圧感か何かがすごいのだろうか、浅羽のところに遊びに来ようとしていた橘くんと松岡くんが足を止めたのが視界の端で見えた。
「……不機嫌ですね。」
「不機嫌だよ。
朝からいろいろあったの。
で、なに。」
少し面食らった。こんな私に面と向かって「不機嫌ですね。」なんてこと言うの浅羽だけだよ。半ば関心しながら問うと、浅羽は口を覆っているため、いつもより聞き取りにくい声で「何かつけてますか」と聞いてきた。
「何かって?」
「あの辺がいつもつけてる匂いと匂いが入り交じったような……、いい匂いが度を過ぎれば酷い匂いになるアレです。」
「香水って言えよ。」
「あの辺」と浅羽が指差したのはさっきまでここにいた女の子グループ。言い分から、浅羽は香水の匂いが苦手なようだ。今まであまり興味はなかったが、大量につけてきてやったら浅羽は離れていくだろうか。否、それだけで席が変わったら苦労しないか。それよりも私が嫌だ。そう心の中で思いながら、私はパタパタと片手を振った。
「私はそういうのには疎くてね。嫌がらせにつけてきてやりたいけど、あいにく持ち合わせはありません。」
「じゃあ天草さんが臭いんですか。」
「あんた一回表出なよ……」
殴り飛ばしてやりたかったがぐっと我慢した。握りしめた拳を何とかほどいて膝の上で拘束する。気を抜いたら浅羽に向けて振りかぶってしまいそうだ。
「……っ、さっきまであの人たちがここにいたの。
だからだと思うよ。」
「何でですか。」
「はぁ?」
コイツとの会話はやたら疲れるから嫌だ。いちいち文脈が短すぎる。意味を理解するのに時間がかかるうえに、何せ話したくもない相手だからな。イライラを隠さずに「何が?」と問えば、浅羽はようやく鼻と口を覆っていた手をはずした。
「何であの人たちがここに来たんですか。」
「……なんであんたにそんなこと言わなくちゃいけないわけ。」
「好奇心です。
普段あんまり関わらないようにしている感じがしたので。」
「……」
お前は普段の私をそんなに注意深く見ているのか。
思わず絶句すると、浅羽は自分の失言に気がついたのかまたすぐに口を開いた。
「弱点を探していただけです。自意識過剰じゃないですか。」
「ばっ、違うわっ!
っていうか弱点探すな!」
なんてやつだ。腹立つ。あと今日も友達寄ってこないし。橘くんと松岡くんも足音をたてないようにしているのか、そろそろと席に帰っていった。私は化け物か何かか。くそー、揃いも揃ってなんだって言うんだ。
「で、答えは。」
「……あんたと話したいんだって。私みたいに。
その方法を教そわりに来たらしいよ。」
投げ捨てるように言えば、だが浅羽はまだ満足しないのか話をやめる合図をしない。
話をやめる合図というのは(と言っても私が勝手にそう思っているだけだが)浅羽が私から目を反らすことだ。私はしょっちゅう目を反らす、というか、いつもたまに目を合わす程度だけれど、浅羽はしっかりと私を見て話す。なぜかはわからないが、そういうヤツなのだろう。それもコイツが苦手な理由の1つでもある。
「で、何て教えてあげたんですか。」
「『ありのままを言ってます』って言っといた。」
「……」
「何?不服そうだけど。
事実でしょうが。」
パシパシと机を叩けば、浅羽は頬杖をついて、何とも言えない目で私を見た。言うなれば面倒くさそうな表情だろうか。表情で相手のことがある程度読み取れるならこんな性格にはなっていないだろうから、あまり期待は出来ないけれど。
「天草さんとあの人たちを一緒にしない方がいいかと。」
「すみませんね、女の子らしくない考え方ですよどうせ。」
「いや、もっと根本的な意味で。」
「私の存在を否定したいのかあんたは……っ」
ことごとくだな。本当に。改めてこの会話で「仲がいい」と言う人たちの気がわからなくなった。
その時、教室のドアが空いた。やっと授業か。と前に向き直ろうとしてはたと止まる。知らない先生だ。まさか……。と先生の動きを見つめていると、黒板に何かを書き出した。その文字は「自習」。浅羽を見れば、頬杖をついたままチラと黒板を見て、
「風邪ですかね。」
「……かもね。」
結局私は、その1時間なんやかんやで浅羽と話していた。どうしてしまったんだ私。そして今日は厄日決定。
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